-37日目- ページ27
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(third party -第3者-)
ぼんやりと天井を映す目が、四肢に巻かれる包帯が、頬に残った擦り傷が、その細い身体に事故の爪痕を残している。
「……具合はどうだ」
話しかけてみようにも、瞬きを繰り返すのみでひと言も発することはないうえに、こちらを見ようともしない。
ひとつため息をついて踵を返した男の背中に、ベッドに横たわった少女は吐き捨てるように言葉をぶつけた。
「………大丈夫だって、言ったのに」
か細いが芯のある声に、鼻をすする音がまじる。
泣いているかと思ったが、振り返って見ても彼女は気丈に涙をこぼさずにいた。
「………かえして」
────おかあさんとおとうさんを、返してよ。
それは、痛哭な祈りにも似た絶叫。
叶えてやるにはあまりにも────酷な願い。
「…医者は神様じゃねぇんだ、すまねぇな」
「……なら────」
少女の続けた言葉に、男は目を見開いた。
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(橘)
12年前の事故直後の香坂は、本当に人が変わったかのようだったと、いつの日か黒田先生に聞かされたことがある。
話すことは最低限に加え、大怪我を負った傷が治るまでの数ヶ月間、彼女は涙ひと粒流さなかったのだという。
「それで院長室に行ったらデスクの上に先生のプレートがあるんですよ、もう何これ！？と思って」
事故直後こそ感情の抜け落ちたような顔をしていた香坂だが、いまではすっかりその面差しも消え去ったように思えるのだが────如何せん彼女のことである。
「って、橘先生聞いてます？」
────“もう先生ったら、私の話聞いてました？”
薄茶の髪を揺らしながら、困ったように、けれど少し怒ったような表情は、自然と母親を彷彿とさせて、妙に懐かしく、それと同時に寂しさがこみ上げた。
「…なぁ、香坂」
「はい？」
「12年前に黒田先生とした約束は、もう無効か…？」
“……なら────私がなるよ。
ふたりの分まで助けたら、なれるでしょう……？”
薄茶の瞳が、ゆるりと閉じられてゆく。
「………なりたかった、なぁ…」
あのとき聞けなかった涙声が、院長室に木霊して消えていく。
12月の空が、やけに澄んで明るかった。
37日目、神様の辞表。
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りりり(プロフ) - とても楽しませて頂いております。ひとつ気になったのですが、32ページの副題「At the Xintiandi.」だと上海の新天地という地区を指してしまうのではないでしょうか。意図されての事でしたらごめんなさい。 (2018年9月17日 8時) (
レス) id: 539d09e6a1 (このIDを非表示/違反報告)
ffchr09(プロフ) - もう読み終えているのに読み返したくなります。私も秋生まれ天秤座なので、作品にのめりこんでしまいました。お忙しいと思いますが、劇場版も楽しみにしています。 (2018年9月16日 14時) (レス) id: 3038f6a4cb (このIDを非表示/違反報告)
憂依 - 2日間で読み込んでしまいました。読み進めてくほど、感動しました。雰囲気に浸りたくてBGMはずっとHANABIを聴きながら...笑 素敵な作品ありがとうございました。劇場版...お忙しいとは思いますが、楽しみにしてます。 (2018年8月15日 8時) (レス) id: 8dc691da23 (このIDを非表示/違反報告)
S - 最高に面白い作品をありがとうございました！香坂先生の続きのお話しが是非是非読みたいです！香坂先生ロスで泣けます。素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2018年8月5日 10時) (レス) id: 223a468b93 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - 最高の作品でした！ (2018年7月1日 1時) (レス) id: 53269475bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月27日 0時
