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(名取)
どうして足が動いていただとか、ただ単に理由を問われれば、明確な答えはいくらでも浮かんでくる。
心配だったから、その後ろ姿が、背中が、あまりにも小さくて、はかなくて、消えてしまいそうだったから。
────そんな理由は所詮薄っぺらいものでしかないと、自分自身が一番よく知っている。
「………香坂先生」
「なぁに」
医局からそう遠くない場所で呼びかけた声に、ゆっくりと彼女は振り向いた。
普段となんら変わらぬ笑顔で、俺を迎えた。
代償と呼ぶにはあまりにも大きすぎるそれを、この人はこの先ずっと、抱えて生きてゆく。
「……強いですね、ほんとに」
薄茶の瞳が、俺の言葉にやわらかく細められた。
どれだけ技術を磨けば、追いつけるだろう。
目標だったはずの彼女は、もしかしたらもう、同じ場所に立つことはないかもしれない。
「………初めて会った日、私のことどんな人かと思ったでしょ、警戒心マックスで」
「…え」
いきなり話題が180°転換して、しかも図星を当てられたものだから、どう答えていいか分からなくて言葉に詰まる。
「ほらほら、素直に言ってみなされ。
怒ったりなんてしないから」
「……自分より年下が何でしゃばってんだと────ちょっ、笑顔で拳固めないでくださいよ！」
「だめ、想像以上に生意気だった」
綺麗な笑顔で振りかぶった拳を軽く受け止める。
その手の小ささにはっとしていたら、香坂先生は楽しそうに笑った。
「…名取先生って面白いよね、なんだかんだ言って仕事やるし」
「藍沢先生には負けますけど」
「大丈夫、あいつ医療バカだから勝てっこない」
「それは香坂先生も一緒なんじゃないですか」
「……否定しかねる」
渋面を作った彼女に思わず噴き出せば、そうそう、笑ってる方が先生らしくていいよ、と微笑まれる。
────バカ、流されてどうする。
「────待ってますから」
一度深呼吸をして吐き出した言葉は、思いのほか震えてはいなかった。
「“先生”で帰ってこれることを、ずっと。
…っ、だから、先生が背負っているものを少しでも、俺に分けてください」
薄茶の瞳が、まん丸になってから揺れて、それから潤んで。
「……ばか、かっこつけ」
頬を流れる涙を指でぬぐって、彼女はありがとうと涙声で、ひどく綺麗に微笑んだ。
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りりり(プロフ) - とても楽しませて頂いております。ひとつ気になったのですが、32ページの副題「At the Xintiandi.」だと上海の新天地という地区を指してしまうのではないでしょうか。意図されての事でしたらごめんなさい。 (2018年9月17日 8時) (
レス) id: 539d09e6a1 (このIDを非表示/違反報告)
ffchr09(プロフ) - もう読み終えているのに読み返したくなります。私も秋生まれ天秤座なので、作品にのめりこんでしまいました。お忙しいと思いますが、劇場版も楽しみにしています。 (2018年9月16日 14時) (レス) id: 3038f6a4cb (このIDを非表示/違反報告)
憂依 - 2日間で読み込んでしまいました。読み進めてくほど、感動しました。雰囲気に浸りたくてBGMはずっとHANABIを聴きながら...笑 素敵な作品ありがとうございました。劇場版...お忙しいとは思いますが、楽しみにしてます。 (2018年8月15日 8時) (レス) id: 8dc691da23 (このIDを非表示/違反報告)
S - 最高に面白い作品をありがとうございました！香坂先生の続きのお話しが是非是非読みたいです！香坂先生ロスで泣けます。素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2018年8月5日 10時) (レス) id: 223a468b93 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - 最高の作品でした！ (2018年7月1日 1時) (レス) id: 53269475bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月27日 0時
