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「…怖い、か？」
ぽつり、と橘先生のそんな言葉が耳に落ちて、うつむいていた視線を上げる。
失うのは、怖い。
けれど、もし自分の目の届かぬところで、何かあったら────。
そんな不安を抱えて、果たして自分はトロントに行けるだろうか。
────けれどきっと、あいつは。
“そんな暗い顔して…大丈夫だよ、私は”
そう言って、また笑うのだ。
────その笑顔の裏に、自分の責任を抱えて。
「……ゆっくり二人で話すといいさ。
これからの、自分達のことを」
「…はい」
胸の中のわだかまりが、少しずつ溶けていく。
それはあたたかさを伴って、じんわりと胸の中に広がっていく。
コーヒーのほろ苦さがまるで、自分の心情を表しているかのように思えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
「香坂先生」
「んー？」
「桜、今年は先生も見れるかな」
「…そうだね、見たいね」
車椅子に座っている私より目線の高い優輔くんに、ふわりと微笑みかけた。
天を仰いで、冷たい空気を吸い込んだ。
高い空が広がっている。
きんと冷えた湖の色を溶かしたような、夏の青々と輝く空ではない、冬の美しい空が。
「……優輔くん、身長伸びたね」
「いつか先生抜かすから」
「ふふ、楽しみにしてるね？」
風が一陣、私の髪をもてあそびながら寒さを運んでくる。
「優輔、香坂も、そろそろ冷えるから中に入りましょ」
「そうですね」
「じゃあ僕、車椅子押す！」
そう言ってすぐに動き始めた車椅子に乗りながら、たくましくなったなぁとしみじみと思う。
────幸せなときが、ずっと…ずぅっと、続いてくれたらいいのに。
無理だとわかっていても、それにすがりつこうとするのは人間の性だろうか。
一人で買えるもん！と、自分と私と三井先生の3人分の飲み物を近くの自販機に買いに行ってくれた優輔くんは、よほどお手伝いをするのが楽しいのだろう。
彼の背中を見送っていたら、くしゃみが続けて漏れた。
「…冷えたか」
「大丈夫だよ、カイロ持ってるし」
後ろからかかった声にそう返す。
入院着の上からダウンジャケットを右腕を抜いて羽織っているとはいえ、やはり少し寒かったようで。
「優輔もずっと心配してたからなぁ。
お互い元気な顔が見れて良かっただろう」
「はい、安心しました」
橘先生が嬉しそうに笑ったのにつられて、私も自然と頬が緩んだ。
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りりり(プロフ) - とても楽しませて頂いております。ひとつ気になったのですが、32ページの副題「At the Xintiandi.」だと上海の新天地という地区を指してしまうのではないでしょうか。意図されての事でしたらごめんなさい。 (2018年9月17日 8時) (
レス) id: 539d09e6a1 (このIDを非表示/違反報告)
ffchr09(プロフ) - もう読み終えているのに読み返したくなります。私も秋生まれ天秤座なので、作品にのめりこんでしまいました。お忙しいと思いますが、劇場版も楽しみにしています。 (2018年9月16日 14時) (レス) id: 3038f6a4cb (このIDを非表示/違反報告)
憂依 - 2日間で読み込んでしまいました。読み進めてくほど、感動しました。雰囲気に浸りたくてBGMはずっとHANABIを聴きながら...笑 素敵な作品ありがとうございました。劇場版...お忙しいとは思いますが、楽しみにしてます。 (2018年8月15日 8時) (レス) id: 8dc691da23 (このIDを非表示/違反報告)
S - 最高に面白い作品をありがとうございました！香坂先生の続きのお話しが是非是非読みたいです！香坂先生ロスで泣けます。素晴らしい作品をありがとうございました！！ (2018年8月5日 10時) (レス) id: 223a468b93 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - 最高の作品でした！ (2018年7月1日 1時) (レス) id: 53269475bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月27日 0時
