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(新海)
────このとき、何が何でも香坂を行かせるのではなかったと。
俺と緋山先生、そしてフェローである名取先生は、のちになって心の底から後悔する。
「新生児キットです、念のため」
「すみません」
香坂の駆けて行った方向に、一瞬目線をくれる。
肩を掴まれて揺さぶられているのを見たとき、心臓がいやな音を立てて跳ね上がった。
────頼むから、無茶だけはするなよ…。
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(香坂)
「藤川先生、香坂です。
いまどんな状況ですか?」
『バッグバルブマスクで人工呼吸してる、けど意識なくなったから挿管するところだ』
────急がないと。
「わかりました、もう着きます」
視界に処置をしている藤川の姿が入ったところで、私の足は止まった。
────止めざるをえなかった。
目の前に、ふらふらとおぼつかない足取りで歩みを進めている男の子がいる。
泥で汚れた細い手足が痛々しい。
そのとき、私の脳内に何かが駆け抜けた。
突き抜ける悲鳴、倒れる小さな身体。
道路に広がる、赤い沁み────。
「…っ、う」
ずきり、とこめかみのあたりを痛みが走る。
目を閉じてその痛みをやり過ごしながら藤川先生の元へと駆け寄った。
「お、助かっ…おい真っ青だぞ、大丈夫かよ?」
「大丈夫です…。
念のため瞳孔確認しておきます」
「あぁ頼む…、ん?」
挿管の体制を取りかけた藤川先生の疑問の声に、思わず顔を上げて彼の視線をたどる。
あの子と、視線がかち合った。
藤川先生が挿管を続けている間、少年はただじっと私を見つめていた。
患者とその子を、ちらと見比べる。
「この人、君のお父さん!?」
藤川先生の問いに、少年はふるふると泣きそうな顔で首を振った。
ちょうど通りかかった救命隊員に声をかける。
「すみません、あの子を上に連れていってもらえますか?
ここだと危険ですので」
「あ、はい」
救命隊員が少年を抱き上げると、その拍子に彼の被っていた帽子がぱさりと地面に落ちる。
それに手をのばしていた視線が、その手とともにまた私に向けられる。
────あ…。
涙で霞む視界の中、最後に触れたその白く細い手は、驚くほど冷たかった────。
────これは、なに。
3→←Something ahead of the dark. -暗闇の先にあるもの 1-

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りな(プロフ) - こんばんは。お疲れ様でした。ひと作品ひと作品大好きです。途中から来れなくなり、昨日残りを一気に読みした。涙なしでは読めませんでした。ayanelさんの作品が本当に大好きです!終わってしまいましたが今後のseason1や番外編も楽しみです!更新頑張ってください。 (11月21日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
Appppppppple - 最初から最後まで読み始めたら止まらなくて、すごく好きです!主人公の波乱展開や次々と起こっていく奇跡に思わず涙をこぼしながら読ませていただきました。耕作との恋愛もじれったいけど思いあってるのが伝わってきてとても素敵でした!これからも頑張って下さい! (10月23日 18時) (レス) id: d7af8c4e34 (このIDを非表示/違反報告)
iz. - 初めまして。主人公の設定、ストーリー共に素敵でした。読んでいく内に吸い込まれまるで、そこに居るかのようでした。コード・ブルー初めて読んでこの作品に出会い嬉しく思います。番外編あれば楽しみにしています。お疲れ様でした。 (10月14日 10時) (レス) id: 3183a48762 (このIDを非表示/違反報告)
kei-k.sho(プロフ) - 初めまして!最初から最後まで一気読みさせて頂きました。最終話、感動でした!ayanelさんの書くお話の中に引き込まれました!何度も読み返せるよう、お気に入り登録させて頂きました!afterstoryも楽しみにしております!! (10月8日 14時) (レス) id: 1bb52ee427 (このIDを非表示/違反報告)
Chiak♪ - 最後まで読ませていただきました!とっても感動して涙が止まりません!!この小説を読むことができて良かったです! (10月7日 13時) (レス) id: 77d933a2c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月20日 0時