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(冴島)
ずっとうつむいているAの腕を引いて、人気の少ない廊下で足を止める。
静かに、口を切った。
「……ごめんね、気づいてあげられなくて」
「…いえ。
私が、臆病なだけです」
言葉づかいが変わるだけで、ここまで雰囲気が変わるものなのかと、自分でも驚いている。
彼女の喋り方は、初めて翔北に来た9年前のそれに、酷似していたから。
「いまのAを見てるとね、昔の貴方を思い出すの。
9年前、初めてここに来た貴方も、そんな感じで…人の群れに入ることから遠ざかっていたから」
「そう、なんですか?」
「うん。
白石先生や緋山先生とは、いまでさえあんなふうに仲良しだったけど、昔はどっちかっていうと、あのふたりの良き相談相手だったり、ストッパーだったりしてたの」
お姉ちゃんみたいだったのよ、と私が笑えば、強ばっていた面持ちがやわらかい雰囲気をまとう。
周りからの視線に怯えていた薄茶の瞳も、ただじっと私に向けられている。
香坂Aという存在を、取り戻すために。
「……こんな状態になる前の私って、ほんと凄かったんですね」
「A…」
相変わらず意思の強さが現れる瞳の輝きが、以前よりも弱々しく思えるのは、気のせいだろうか。
「藍沢先生がトロントに行かないのは、私の…」
「それは違うわ」
澄んだ声がその先を紡ぐ前に、Aの肩を掴んで止めさせる。
────ほんっと、似たもの同士なんだから。
「藍沢先生は、自分でトロントに行かないって言ったの。
それは貴方のことがとても大切で、ひとりにさせたくないって思ってるから。
…ねぇA、お願い、もっと私達に頼って?
私達は────仲間、なのよ」
「…っ、冴島さん……ううん、はる、ちゃん…」
ぽつりとこぼした彼女の呼び方に、その懐かしい響きに、目頭が熱くなる。
ともすればあふれそうになる涙を懸命にこらえて、精一杯の笑顔を作った。
「それでもっと笑ってくれたら、香坂Aの復活ね」
ぐす、と鼻をすすりながら目をこするAに、腫れるからだめよ、と苦笑して窘めると、やはり彼女はあの、泣き笑いのような顔を浮かべて。
「…涙、とまんない…です」
目尻を下げて、顔をくしゃくしゃにして、笑った。
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リラン(プロフ) - いつも更新楽しみにしてます!読むたびに次をもとめてしまう!今後も期待してます!話は変わりますが、少年陰陽師読んだことありますか?何となく文が似ている所があってずっと気になっていたんです。急に質問すみません。もし知らないのであれば申し訳ないのですが… (2019年2月12日 12時) (レス) id: c050d878db (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 18、大大抵ではなく、大抵では? (2018年7月4日 20時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
鈴子 - コードブルー好きにはたまらないね\^-^/ (2017年10月14日 21時) (レス) id: bbbfeb8862 (このIDを非表示/違反報告)
咲(プロフ) - いつも更新楽しみにしています!更新される度に続きが気になって気になって!最終回、楽しみにしています!更新頑張ってください! (2017年9月19日 23時) (レス) id: e98d2ab7a8 (このIDを非表示/違反報告)
藍沢せんせすき - 面白すぎます笑楽しみにしてるので更新頑張ってください^ ^ (2017年9月19日 22時) (レス) id: 0944e50e01 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月12日 0時