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「優輔くん、どうですか」
「ここじゃやはり厳しいわね」
淡々と紡がれた事実に、私は目を伏せた。
「すみません…お力になれなくて」
「気にやまなくていい。
香坂は海外の病院にかけ合ってくれて、3年前だって…」
「でも!救えなかったら…意味ないじゃないですか…っ」
喘ぐように息を吐いて、胸のあたりに手をやる。
どくん、と心臓がいやに早く脈打つのを感じる。
────あ、やば…。
「A、落ち着きなさい…」
「……すみません」
深呼吸をひとつ。
ふたつ。
────大丈夫。
そのときふと、三井先生が後ろを振り返る。
つられて私も振り返って、目を見開いた。
「……緋山」
「緋山先生…」
美帆ちゃんはその場でお辞儀をする。
私の肩をそっと叩いて、三井先生は立ち上がった。
「あ…」
「A。
もう病室に戻りなさい、今日は疲れたでしょう。
…来てくれてありがとう」
伸ばした手は、むなしくも空気を掴む。
そのあと、また親切に病室まで車椅子を押していただいた橘先生は、いつもと変わらない声音で、おやすみと言ってくれた。
6年前────ようやくLAでの仕事にも慣れてきた時に、三井先生から知らされた事実。
拡張型心筋症。
優輔くんの心臓は、移植するしか助かる道がないこと。
私も循環器科の意地にかけて全力を尽くしたが、駄目だった。
そして────────。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(緋山)
「そうですか、Aが…」
「ええ。
向こうで忙しいのに、あの子は優輔のために必死で治療法を探してくれたわ。
3年前、補助人工心臓をつけることを勧めてくれたのもあの子。
だから…責めないでやってほしいの。
あの子は一番、緋山のことを心配してたから」
「わかっていますよ」
それを1人で背負い込んできたのかと思うと、さすがというか、もう慣れたというか。
「………さっき、苦しそうにしてましたけど、あれって」
「……ええ。
────私の口からは何も言えないわ。
自分で言いますから、そのときまで待ってくださいって…ほんと、我が儘で意地っ張りで」
「なんでも1人で背負い込もうとする謙遜屋で…」
手のかかる妹です。
そう言い残して、私は三井先生の元を去った。
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時