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(藍沢)
先の救命で汚れた自分の衣服を取り替えるために、脳外科部のロッカールームに来ていた。
「帰って早々、トロントからのご指名か。
流石だな」
「海外飛び回るのも結構疲れるもんだよ。
特にロスは初めての海外ってこともあって、一週間くらいまともに寝れてなかったし…
ほんと、死ぬかと思った」
仮にも医者が死ぬかと思った、なんて。
くすくすと笑う後ろの彼女は、面識は殆どなかったが、高校は同じだった。
廊下や全校集会ですれ違ったり。
放課後図書室で医学の本を読みふけっていた時に、
「医者になるの?」
と、色素の薄い薄茶のセミロングの髪を揺らしながら尋ねてきたとき、初めて彼女の声を聞いた。
高校時代の思い出は、今でも脳裏に焼き付いて消えない。
だから翔北でフェローとして再会した時は、らしくないほど心臓が跳ね上がったのを覚えている。
高校時代よりも伸びたなと思っていた髪は、実はフェロー時代には一度ばっさり肩上まで切られていた。
それが今や胸の下あたりで揺れていることに、時の流れを感じた。
医者として働き始めてもうすぐ10年目。
体格はさして変わらなかったが、顔立ちは凛々しさが増し、時折見せる仕草や表情も、随分やわらかく、それでいてほのかに色香を含むようになった。
────変わったな、こいつも、俺も。
脳外のスクラブを脱いでから、ちらりと後ろに視線をくれる。
長年の付き合いか、はたまた興味が無いのか、Aは呑気にスマホを弄りながら、ロッカーを開けていた。
「見てないから着替えていいよ。
ロッカーの大きさとか確認してるから」
まとめられていた髪は解かれ、はらりとこぼれた隙間から白いうなじが覗く。
「でも、みんな元気そうでよかった。
心配してたんだよ?」
「その余裕があるなら、少しは自分の体のことも考えろ」
「それはお互いさま。
新人にも容赦ないんだから…。
男の子はともかく、女の子は優しく扱ってあげてね」
声音が優しいせいか、全く苛立ちはない。
すんなりと胸に落ちてくるような、そんな感じがする。
昔からずっとこうだった。
だから白石や緋山は、Aを俺に差し向ける。
Aもそれを分かって、こうしてゆるく注意をしてくれる。
その言葉は、気づかないうちに俺たちをやさしく拘束して、間違った方へ導かないようにしているのだ。
それは今も昔も、変わらない。
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時