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かつん。
現場ではまず聞き慣れない、ハイヒールの音がしたと思ったら、私と藍沢先生の抑えている裂傷部の間に、するりと細い手が差し込まれた。
「5センチと…深さはそこまで無いね。
恵ちゃん、向こうの患者さん、行ってあげて」
澄んだその声が、暴れる心臓を落ち着かせた。
藍沢先生も、めったに崩さない表情が驚愕に染まっているのがわかる。
「輸血しながら二箇所閉じます。
準備お願いします」
「どうして…」
呆然とする私を、藍沢先生が現実に引き戻す。
「白石、説明は後だ。
────頼む」
「はい、頼まれました。
5分で終わらせるね」
私が一歩下がると、するりと目の前に入り込む華奢な身体。
オフホワイトのドレープシャツとチャコールグレーのパンツ。
手術用のガウンを簡易にまとった彼女が一歩、身体をずらす。
かつん、とオペ室に響くのは黒のハイヒールパンプスの軽い音。
無造作にバレッタでまとめあげた薄茶の髪が、ライトの光を反射して透けるように輝く。
圧迫で飛ぶ血なんてなんのその、指に糸を絡めた彼女の両手がくるりと閃いたと思ったら、次の瞬間にはもう縫合に取りかかっている。
「なんであんたがいんのよ…」
「そんなにため息つかないでよー、悲しいなぁ」
緋山先生の声にのほほんと応えつつも、ひらりひらりと翻る手は止まらない。
「よし…第一裂傷部縫合完了。
血圧は?」
「問題ない、安定してきてる」
藍沢先生が素早く応答すると、彼女は肉片に挟まれた第二裂傷部の細い隙間にそっと指を差し入れる。
小さな手だからこそ、私たちでは確認出来なかったそこが確認できる。
藍沢先生と彼女。
この立ち位置を見るのは実に7年ぶりで。
「…いけそうか?」
「ん…、傷自体はこっちもそんなに深くないけど、びっちり塞いじゃうと周りまでめくれてくる恐れがあるね」
ちょうど胃の下の部分。
無理に引っ張って縫合してしまうと、引っ張られたまだ弱い部分が裂けて連鎖、そこから出血してショック死なんてことになりかねない。
ずるりと裂傷部から手袋の嵌った手が出てきて、道具を手に取る。
「やります」
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恵李 - こんにちは。恵李です。1年前からほとんど毎日見てます!続編よろしくお願いします!あの〜質問questionなんですけど、何歳ですか?私は華のJK16歳ですけど教えてください!! (2022年10月19日 22時) (レス) @page10 id: 18a46fedc8 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - ayanelさん» こんにちは… (2021年9月10日 11時) (レス) id: 9a04ef101c (このIDを非表示/違反報告)
レー - 質問というか聞いていいですか? (2021年3月8日 22時) (レス) id: 88b0f39677 (このIDを非表示/違反報告)
フラ - 作品を参考にしてよろしいですか?? (2020年9月11日 22時) (レス) id: ead1db5ef4 (このIDを非表示/違反報告)
あゆか(プロフ) - とても作品内容は面白く読ませて頂きました。一言申し上げるとセリフの前に名前を書いていただけると誰のセリフだか分かりやすくてもっと良い作品になると思います。素敵な小説ありがとうございました。 (2019年12月31日 0時) (レス) id: 8f8d498a5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年7月25日 21時