海に溺れて沈むなら kwmr ページ21
偶に、自分でもよく分からないタイミングで得体の知れない何かに対してすごく恐怖を感じることがある。
そんな時私は決まって家から30分程の場所にある海へ行く。それがお昼だろうが夜中だろうが何時だろうが構わずに。
────今日もそうだった。
いつもと変わらない日常を送っていたはずなのに、急に恐怖が私を襲った。
だから夜中にもかかわらずこの海までやってきたのだ。
この時間に来るのは初めてではない。でも、この時間に他の人がやって来たのは初めてのことだった。
｢…こんばんは、こちら失礼しても？｣
『どうぞ』
律儀な人だ。この場所は私の私有地などではないのに。
私も、名前を知らない彼も、言葉を交わすことなく、ただ海を見つめていた。
海は何も語らず、空の黒色だけを反射していた。
30分程度過ぎただろうか。
不意に彼が口を開いた。
｢偶に、本当に偶に、息苦しくなるんです。何もかもから逃げ出したくなってしまうほどに｣
｢そんな時に、誰もいないここへ来ると息ができるようになる気がしていつもここに来るのです｣
これは私に対してここに来るなということを遠回しに言っているのだろうか。自分のテリトリーに入るなと言いたいのだろうか。
｢でも今日は貴女がいた。名前も知らない貴女が。ただそれだけなのに、何故でしょうか、息が吸いやすくなるのです｣
あぁ、なんだ。彼も同じなのか。そう思うとすっと視界が開いた気がした。
『私もです。恐怖から逃げたい時にここへ来ていました』
『そして貴方と同じように、貴方といると恐怖がどこか遠くに消えてしまったみたいです』
そうして彼と顔を見合わせて微笑んだ。
｢僕は河村拓哉と言います。貴女は？｣
『改めまして、AAです』
｢Aさん、またいつか会えるでしょうか｣
『河村さんがこちらにいらっしゃってくだされば、いつでも』
｢息苦しくなった、といった建前がなくても？｣
『私の方こそ、恐怖から逃げたいといった建前がなくても？』
｢ええ、勿論｣
『それなら会えますよ』
そう言うと彼、河村さんはふわっと微笑みではまた、と言って立ち去った。
私も帰路を辿り始めた。
海は依然として何も語らなかったが、空の黒色と月の黄色を反射していた。
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音穏(プロフ) - まりちゃむさん» 本当ですか！！そう言っていただけて嬉しいです！リクエストありがとうございましたー！ (2020年12月14日 8時) (
レス) id: ec43fdd9d2 (このIDを非表示/違反報告)
まりちゃむ(プロフ) - 音穏さん» リクエスト叶えて下さってありがとうございます。まさにって感じです！笑 (2020年12月13日 20時) (レス) id: 3c5d7a454e (このIDを非表示/違反報告)
音穏(プロフ) - まりちゃむさん» 解釈違いでしたか…。ごめんなさい…。新しい作品を書かせていただきますね！申し訳ございませんがもう少しお待ち下さい…！ (2020年12月10日 7時) (レス) id: ec43fdd9d2 (このIDを非表示/違反報告)
まりちゃむ(プロフ) - 音穏さん» リクエスト叶えて下さってありがとうございます！こっちのバージョンも好きなんですが彼女は年下であまり賢くなくて頑張って伊沢さんが出した本を読んでてそれに気づかない伊沢さんにかまちょされるイメージでした...。 (2020年12月8日 9時) (レス) id: 3c5d7a454e (このIDを非表示/違反報告)
音穏(プロフ) - まりちゃむさん» わー！お返事遅くなってしまいすみません…！リクエストありがとうございます！できるだけ急ピッチで書かせていただきます！ (2020年11月23日 9時) (レス) id: ec43fdd9d2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：音穏 | 作者ホームページ：
作成日時：2020年7月21日 21時
