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「ところで、お前の家スーツあったっけ…今日プレゼンあんだけど…」
 ふと、青年の視線がこちらにぶつかる。首を傾げ、瞳に映る叢雲越しの朝日が揺らぐ。
 着替えは…そう
「愛人のスーツがあるわ、拝借しましょう」
「おいおい…いいのかよ、てかお前の恋人ちっこかったろ」
ああ…確か、暁に紹介したのは…誰?確か、ら行の、ら、ら…り、る…?
「あーっと…檸檬みたいな名前の…」
「来夢…じゃなくて、レ…烈李。そう、確か彼よ」
「そうそう、烈李さん。てか誰だよライム」
「あたしの愛人よ。小学生」
 182の大男に小学生の服を着せる訳ない。160そこそこの烈李の服も入る筈ないけれど。
「てかアウトだろ、小学生」
「あら、あたしの恋人にしては珍しく、ついてないのよ?前科」
 これから付きそうな雰囲気はあるけれど。
「お前に前科がつくんだよ」
「そう?…勿論、スーツの持ち主は彼らじゃないわ。確か…名前は忘れたけど、30代前半、妻子持ちで三股中の奴。犯罪歴は麻薬の密売」
「そんな職業みたいなテンションで前科言われてもな」
「まだ見つかってないから前科ではないけれど…因みに彼の職業は小学校教員よ」
「絶対教育に悪いだろ。それよりお前愛人何人いるんだよ」
「忘れた」
「考えろ、少しは」
 そんなもの、わざわざ数えてない。それに、
「恋人の数なんて数える必要ある?」
「大概はその必要がない程少ないんだよ」
 俺も9人しかいないし、と暁は付け加える。
「貴方も大概女癖悪過ぎじゃない?」
「そうかもな」
 暁は虚ろにアーケードを見上げる。天蓋に開いた穴から垂れたかつてシーツだったろう布がはためき、髪を一陣の風がさらう。
「さぶ…」
 見遣ると、暁がきゅっと蹲っていた。膝を抱えて、まるで子供のよう。雨でシャツが張り付き、筋肉の稜線が透けていた。
 弱くて小さな暁。凍えてかわいそうな暁。暖めてあげなくては。
「ねぇ…暖めてあげよっか?」
「ん?…ああ…いらね」
 暁が左手を軽く握る。そのまま拳の掌の側を上にして開くと、掌から火花が飛び散り、炎が上がった。
「暖かい…だろ、これで」
  青年は私に微笑みかける…彼は、誰?
 戸惑い、瞬く。瞳を開くと、右隣に居たのは何時ものように煙草をふかす暁、だった。そう、この路地裏には私と彼の二人しか居ない筈、なのに。

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作者名:みかなべ | 作成日時:2024年3月21日 18時

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