【wrwrd】え、幹部??……逃げてもいいすか【男主】

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サクッ

小さな音がした。

「…は?」

金属音ではない、軽い音。
何の音かって?

ナイフが、枝に刺さった音だよ。

俺の作戦ってのはこれ。
ゾムさんのナイフを、俺が持っていた枝に刺す事。
意味無さそうにも見える行動だけど、実はあるんだな。これが。
いくらスッパリ切ったって、木の繊維は細かいから。
返しのようになって、ナイフはすぐにはとれないんだよ。
だからこれに刺さってくれたら、数秒とはいえ丸腰状態になる。
だってナイフの殺傷能力を持っている刃が使えないんだから。
狙い通りに刺さったナイフ。
こんなチャンスを逃す俺ではない。
今度こそ、構えていたナイフをゾムさんの懐に刺した。

「……っ」

とはいえ、ゾムさんもプロだ。
少しは呆けていたが、すぐに状況を把握して、ナイフから手を離して後ろへ跳んだ。

でも、俺はこのチャンスを逃すとほぼ負ける。
俺も負けじと前へ跳んで、ナイフをしっかりと刺した。

「ぐっ……」

『はっ…は』

両手に力を入れて押し込む。枝はさっき投げた。

手応えがあったから、本当に刺さったとは思う。
けど。

ドンッ

俺、突き飛ばされちゃった。
え、嘘やん。あの体勢からどうしてそんな力が出るっていうのさ。
でも実際突き飛ばされてんだからどうしようもない。

ナイフを手離して、更に背後にあった木に叩きつけられた。

『がはっ』

痛い。疲労感も相まってめっちゃ痛い。
涙が滲む目を薄く開けると、同じく座りこんだゾムさん。
…しっかりナイフは刺さってる。血も出てる。
うん、でもさ。それなのにさ。

この人笑ってるんですけど。

怖い怖い怖い。え、なんですか。笑ってるって事は………考えたくもない。

とにかく、俺が勝ったわけじゃないって事は分かった。
笑っている人が降参するはずないもん。
えーと、つまり。立場は逆転したって事か。
俺は丸腰。相手は丸腰だけど、腹に刺さってるナイフがあるから……

…それ抜いちゃったら、武器になっちゃいますよね。

サーッと血の気が引いていくのが分かる。
冷や汗がブワッと溢れてきた。

待って、立たないで。こっちはまだ衝撃で手足痺れてるんですって。
ねぇ、歩いてこないで。動けないんだってば。
ちょ、目の前でしゃがまないで。怖い怖い怖い怖い。

笑いながらこっちに来て、目を合わせてきた。
くっそぅこんな状況じゃないならとってもいい目の保養になったのに!!
楽しんでる場合じゃねぇじゃん!!

イケメンが笑うと一周回って怖いこともあるようです。やだ。

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