鍵盤上の踊り場の上で (ページ23)

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小さな光ページ23

「相原くん」
Aは涙の跡を残したまま笑っていた。そして、こちらを見てこう言った。
「ありがとう」
Aは、そう伝えた。
たった5文字。けれど、その5文字の中にはAの溢れんばかりの気持ちが詰まっているのだろう。
「こちらこそ」
「相原くん」
Aは、また僕の名を呼んだ。
愛おしそうに、嬉しそうに。
「これからも、私にピアノを教えてくれませんか？」
そう言って、僕に向けて手を差し伸べた。
まるで、プロポーズのようだな、とも思った。いや、もしかしたらそうなのかもしれない。君のピアノ人生に今の一時だけ寄り添う者として、君は僕に。
僕は笑って言った。ついでに、心の中の照れくささを添えて。
「喜んで」
僕は、差し伸べてくれたAの手をそっと握った。Aの手は、思っていたよりも細くて白くて、温かかった。それが、これからのピアノへ向けた愛情であってほしいと願わずにはいられない。
夕暮れ時の太陽が、視界の端で眩しく輝いた。同時に、Aの目からこぼれ落ちた涙も輝いた。
きっとそれは、太陽よりも強く。
小さな光を放っていた。