鍵盤上の踊り場の上で (ページ11)

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名前ページ11

そんなことがあった昨日だったから、僕は人のことを気にするようになった。
Aが何組なのか知り得なかったからだ。
もし何か言いたいことがあったりすれば、Aのクラスに行って伝えられると思ったのだ。
隣のクラスから探した。Ｃ組にはいなかった。少なくとも、僕が見える範囲内で、だが。
A組へと向かった。
「あれ？昨日の人だ！」
昨日初めて鼓膜に響いた声がまた響いた。驚いてそちらへと振り向く。
そこにはAがいた。
僕はAの言葉に応じようとした。
けれど。
…昨日の人？
どうやら、Aの方は僕の名前を覚えていなかったらしかった。
…Aの弱点を見つけた。少しからかってやろう。
「…僕の名前、覚えてなかったのか」
「……」
無言で笑ってこの場から逃れようとするAを見て、僕は可笑しくなった。
「湊太。相原湊太」
「…あぁ、そうだったなぁー」
「絶対覚えてなかったよな？」
「そ、そんなことありませんよ？」
慌てているAを見て、少し可笑しかった。僕がそうして笑っているとAもまた笑った。僕の笑顔はそんなにおかしいだろうか。
ふと時計を見ると、休み時間は終わりに近づいていた。そう言えばと用件を思い出した僕はAにそれを伝えた。
「何組？」
「A組。君は？」
「B組」
「え、隣だったの？知らなかった」
Aは目を見開いて僕を見た。確かに、こういう出会いというものは意外と近いところにあるのかもしれないな、なんて考えた。
「あ、次の授業、体育だから」
Aはそう言った。言われてみればAはジャージ姿になっている。
「まだ暑いのに長袖ジャージ着てるのか」
「…寒がりなんだよね、私」
そのままAと休み時間が終わるまで話した後、僕は教室へと向かった。