鍵盤上の踊り場の上で (ページ1)

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Prolog ページ1

引き離されたはずのものから、また引き戻られた。
どうして、神はそんなに気まぐれなのか。
だって、あの時離したじゃないか。僕の大好きだったものと、僕を。
それは最早、「気まぐれ」というより「諦め」なのかもしれない。
それが今、僕の目の前にあって。
あの時はあんなに輝いて見えたのに、今となってはそれはただの黒い物体で。
少しの手の震えを気にしないように、そこにそっと手を置いた。
心は、冷えきっている。
高揚感なんて、どこから来るものか。
いつかの自分が、どうしていたかわからなかった。
どこから、あんなに「大好き」という気持ちが溢れていたのだろうか。
わからない。
わかりえない。
一生、わかるはずがない。
けれど。
そうは思っていても、体はどこかで覚えている。
例えば、どこかで曲が流れた時にそれに合わせて指を動かしてしまったり。
例えば、退屈な授業の時に頭に流れるのはいつか弾いたピアノの曲だったり。
そういうことの連続が、僕をますます困惑させていた。
…僕は、何を求めている？
ピアノの前に座ると指の震えは止まらないのに。それなのに、ピアノを求めるというのか。
最早、気持ちの問題というより、僕の問題であった。
わかりきっているよ。そんなこと。
そう思いつつも、僕はきちんと向き合った。
目の前の黒い物体と、愚かな自分自身を。
そうして姿勢を整えて、一瞬楽譜を睨んで。
僕はその曲の一音を弾き始めた。

──これは、ピアノを嫌悪するようになった少年と、ピアノを愛する少女の、ピアノを通じて生まれた物語。