22 ページ27
*****
恭平に隣からシャツを引っ張られる。「……で？ 結局、Aさんのタイプってどんな男なん？」
「知らねーよ」
「姉弟でせえへんの？ そういう話」
つり革に掴まったまま記憶を辿った。
なんだっけ。
ずっと昔、姉ちゃんがまだ中学生だか高校生だかの頃にそんな話をよく聞かされた気がする。夜景がどうとか。
「……王子様みたいな人、だったかな」
「俺やん！」
恭平の奥に立っていた謙杜が、電車の揺れと相まってよろける。「お前のその自信はどっから来とんねん」
「そんで？ 他には？」
「うーん……」
頭の中で考えを巡らすうちに、ある１人が思い浮かんできた。「……美形だな」
「おっしゃきたでこれ」
「なおかつ色白」
恭平が慌てて自身の頬に手を当てた。
「あと、卍〜とか言わなそう」
頭を抱える恭平。謙杜がぷっと吹き出した。
「……誰それ。みっちーのこと？」
「なんでそうなるわけ？」
「美形の白い陰キャとか、みっちーやん」
「どっから陰キャが出てきたんだよ」
苦笑しつつ窓の外を見る。
ホームの一角に目が止まった。
「……悪い。急用できた」
「は？」
「帰る」
つり革から手を離し、閉まりかけたドアをこじ開けてホームに出る。
「おい、俺の病理学は！？ 教えてくれる言うたやん！」恭平の叫び声を残し電車が発車した。
人混みをかき分けて進む。
ホームの片隅に立つ人物。
少し背を丸め、俯き加減に白線を眺めている。虚ろな目だった。
「えっと、……大我さん、ですよね」
その人がぼんやりと顔を上げる。
「姉がいつもお世話になってます」体を折って会釈をした。
「……あぁ、駿佑くん」
そう呟く声には、以前会った時とは別人かと思うほどに張りがない。
「こんな時間にどうされたんですか？」
その時、急行列車が目の前を通過した。
ホームに巻き起こる風。
華奢なその人の上体が、風圧に押されてぐらりと揺れた。
「あぶなっ」
咄嗟に抱きかかえる。
大丈夫ですか、と顔を覗き込もうとした瞬間、覚えのある香りを嗅いだ。
髪の隙間に僅かばかり残された、線香の匂い。
今日は13日だった。
「大我さん」
そっと囁いた。「行ったんですか、あのお寺に」
体を支えられたまま、彼が僕を見上げる。
「……行ったんですね。姉と」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1439人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
真澄(プロフ) - 爽さん» ありがとうございます！早く明るい話に持って行けるように頑張りますね！ (2021年10月20日 21時) (
レス) id: aa6f36c2c4 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - 更新ありがとうございます！次も気になって仕方ないです (2021年10月12日 22時) (レス) @page37 id: 3c9be1cb24 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» 伏線はすごく頑張って敷いているので嬉しいです。本当に救ってあげて欲しいですね( ；∀；) (2021年10月1日 23時) (レス) id: c611a69c7e (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 改めて最初から読み返すと色々な伏線があって、すごく納得しました。切ない苦しい思いを抱える主人公を、大我さん救ってあげて、、！という気持ちで続きを待っています。 (2021年9月29日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 浬さん» 恐縮です！ありがとうございます😂 (2021年9月24日 23時) (レス) id: c611a69c7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年8月17日 11時
