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布団の上に跳ね起きた。
全身から滲み出る汗で、寝間着が肌に張り付いている。
夢の続きみたいな、１人きりの暗い部屋だった。
我に返った瞬間、込み上げる嘔気。
口を押さえ、廊下に駆けた。
「…っ、うぅ……」
泣きながら便器に胃液を吐き出す。
苦しい。
苦しい。
どこまでも果てなく続く地獄。
涙と汗とで視界がぼやける。
この瞬間はいつも、高校生だったあの頃に巻き戻された気持ちになる。
ただひとり、私だけが世界から取り残されたような。
それが怖くて、どうしようもなく苦しかった。
やっと深呼吸ができるようになった頃、朦朧と顔を上げた。
水洗のレバーを引き、トイレの床へ崩れるように座り込む。
気配を感じた。
視線を横に向ける。
水のコップを持った駿佑が廊下に立っていた。
「……起こしちゃった？ ごめんね」
力なく笑顔を作り、天井を仰ぐ。「元気だけが取り柄なのにね。……もう嫌になっちゃう」
「姉ちゃん」
弟が私を呼んだ。
聞いたことのない暗い声だった。
「頼むから病院行ってくれ」
さすが医者の卵って台詞ね、と笑ってみせる。「胃の調子が悪い時って、消化器内科かな」
こつんと音が鳴った。
駿佑の手に握られていたコップが、トイレマットの上へ落ちる。
マットに染み込んでいく透明な水。
「……駿ちゃん？」重い体をゆっくりと起こした。
「心療内科」
私をまっすぐ見下ろす瞳。
光を失った色だった。
「姉ちゃん、PTSDだよ」
駿佑が私の手を引いた。
強く抱き締められる。
声も、体も。
両親を亡くしたあの日以上に、弟はひどく震えていた。
「俺……これ以上こんな姉ちゃん見てられない。……辛いんだよ」
震えながらもはっきりと紡がれた言葉が、耳の奥へと直接届く。
心臓の鼓動と呼吸とが同時に止まったように思った。
あぁ。
深く息を吐き、目を閉じる。
気付いてしまった。
一生、察して欲しくなどなかったこと。
隠し通して生きていきたかったこと。
弟はすべてを知っている。
すべてを知って、私のために知らない振りをしていたのだ。
私が守りたかったあの弟は、もうとっくに大人になっていた。
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真澄(プロフ) - 爽さん» ありがとうございます！早く明るい話に持って行けるように頑張りますね！ (2021年10月20日 21時) (
レス) id: aa6f36c2c4 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - 更新ありがとうございます！次も気になって仕方ないです (2021年10月12日 22時) (レス) @page37 id: 3c9be1cb24 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» 伏線はすごく頑張って敷いているので嬉しいです。本当に救ってあげて欲しいですね( ；∀；) (2021年10月1日 23時) (レス) id: c611a69c7e (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 改めて最初から読み返すと色々な伏線があって、すごく納得しました。切ない苦しい思いを抱える主人公を、大我さん救ってあげて、、！という気持ちで続きを待っています。 (2021年9月29日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 浬さん» 恐縮です！ありがとうございます😂 (2021年9月24日 23時) (レス) id: c611a69c7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年8月17日 11時
