. ページ8
そう尋ねられ、我に返った。
「……どうして知ってるんですか？」
言った後で、自分が筋違いな発言をしたことに気付く。
この人は私の上司だ。秘書の学歴くらい当然に調べているはず。
しかし、返ってきた答えは意外なものだった。「イントネーションが、たまに」
思わず自分の唇に指で触れる。
言葉のことで何らかの指摘をされていたのは、上京してせいぜい２、３年の間のものだ。
今は周囲の誰も、私が関西出身だとは勘付いていないと思っていた。
「みんなはたぶん気付いてないよ」
「え？」
「嫌なんでしょ。大阪出身って知られるの」
「……びっくりしました」
それには答えず、私はうずらの卵をひとつ口に入れた。「今はもう、弟を叱る時くらいしか関西弁は出てないと思ってましたから」
「俺は弟と一緒かよ」同い年なんだけど、と不服そうに食べかけの串をべたべたソースに浸している。
ワイシャツの袖を引っ張ってソースの容器から引き離した。「私の方が誕生日早いのでお姉さんです」
相変わらずこの人はなぜか、エスパーみたいに私のいろんなことをお見通しなのだった。
「大阪、嫌いなの？」
「……大阪というか、梅田が」
「なんで梅田？」
「いろんなことがあったので。……良い思い出も、悪い思い出も」
ふーん、と大我さんはラムネサワーをひとくち飲む。
「今日のホテル、梅田のど真ん中だけど大丈夫？ うちが法人契約してるとこ」
「仕事ですから」
中学３年のあの冬の日以来、私は一度も梅田を訪れたことがなかった。
関西の若者は困ったら梅田みたいなところがあるから、上京までの３年間にも渡ってあの場所を避け続けるのはそこそこ至難の業だった。
あの人もそんな私の様子に初めこそ不思議な顔をしていたが、何も聞かず他の場所に連れて行ってくれていたのを記憶している。
「俺、親父も母親も大阪出身なんだよ。親父は家だと関西弁話してる」
「社長の関西弁、全然想像つかないですね」
「うちの会社、じーさんの代までは大阪に本社があって。それで研究所だけはまだこっちに残ってんの」
その研究所兼大阪支社の視察というのが、今回の大我さんの大阪出張の目的だった。
「親戚も墓も全部こっちだから、小さい頃よく新幹線に乗って来たな」
「お母様のお墓もこちらにあるんですか？」
反射的に尋ねてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1158人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HiHiJets」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
