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中庭のベンチに並んで座る。
和食中心で彩りも味も完璧なその弁当が、お母さんではなく彼自身の手作りというのには驚いた。
途中目ざとい廉先輩が冷やかしに来たが、２人揃って完全に照れてしまって面白い返しもできない。
松村くんは薬学部を目指している話をしてくれた。
薬剤師になりたいのかと問えば、そうではなく研究職の方だという。
「道枝さんは？」
「私は国公立ならどこでも。文系の学部がええかな」
「国公立かあ」
「うん。学費が安いから」
自分の成育環境について話すべきか迷っていた。
恥ずかしいことではないと思っているから、口に出すこと自体に抵抗はない。
しかし、しばしば相手から過剰に気の毒がられたり、タブーに触れたかのように不自然なスルーをされたりするのが結構しんどかった。
「去年親がどっちも死んじゃって。今は施設で暮らしてんねん」
結局、さらりとカミングアウトしてみる。
「そうなんだ。大変だったね」彼は神妙な顔つきでそう言った。
嬉しくなった。
無意識のうちに私が求めていた通りの反応が返ってきたから。
深くは触れず、ごく自然に気遣ってくれる。絶妙だった。
松村くんは優しい人なのだろう。
その後も彼は、弁当を自作する日はもれなく私の分も持ってきてくれた。
綺麗な声で優しい言葉を話すところ。
勉強も運動もできるところ。
なのにちょっぴり不憫体質なところ。
彼との距離が縮まっていく毎日は、知らなかった感情を私に教えてくれる。
女友達ができる時とは違った。
男の子から特別に扱われる、甘酸っぱい初めての体験。
世界が色づいて見えるという誰かの言葉は、上手いことを言ったものだと感心する。
そんな日々がひと月ほど続いた頃、私は15年の人生で一番の勇気を出すことを決意した。
「あのね、松村くん」
彼が弁当から顔を上げる。
「これからは、お昼休み……」
だけじゃなく、もっとずっと一緒にいたい。
そう続けるつもりだった。
ところが彼は早合点したのか、急に慌て出す。「ごめん、迷惑だよね。勝手に弁当作ってきて」
「ちがうの！」
大きな声が出てしまった。
彼に誤解されたくなくて。
松村くんは自身の弁当箱の蓋を閉じた。
私に向き直る。
「ほんとは俺、道枝さんと話す口実が欲しかっただけなんだ」
え、と返す声が震えた。
心臓が強く脈打ち始める。
「好きです。俺と付き合ってください」
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爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
