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名前を呼ばれ、顔を上げた。
応接室の入口に北斗くんが立っている。
私服姿で、脱いだ白衣を肘に掛けていた。
彼がこちらに歩み寄る時間で次に来る言葉の想像がついて、手にしたボールペンを意味もなく手帳に押し付けてしまう。
「帰りの新幹線、何時？ もし良ければお茶でもどうかなって」
10年振りだから、と北斗くんは遠慮がちに私の顔を窺った。
なんと答えるべきか、しばらく逡巡する。
「……行ってきなよ」
大我さんが手元の資料に視線を落としたまま言った。「新幹線は夜なんだし、せっかくだから行ってきなよ」
北斗くんに向かい、小さく頷く。
彼は嬉しそうな笑みを浮かべた。
子犬のように無邪気な笑顔。
10年前の面影を残すその表情に、胸がちくりと痛んだ。
なぜかにやにやしている樹さんが、大我さんの背中を叩いて顔を覗き込んでいる。「きょもは俺が飯連れてってやるから。機嫌直せ、な？」
大我さんが正面から樹さんを見た。「樹」
「おん？」
「きらい」
「なんでだよっ！」
街へ向かう電車の中で北斗くんは、「食べたい物ある？」と尋ねてくる。
私は首を横に振った。
「それなら梅田に最近よく行くカフェがあるから、」
そこで彼ははっと言葉を止めた。
しばらく宙に目を泳がせて考えを巡らせたのち、私に笑いかける。「久しぶりに、行ってみよっか」
梅田であずき色の特急に乗り換え、２駅目。
西向きに10分ちょっと。
駅から繋がるデッキを歩きながら、「懐かしい」と思わず呟いていた。歩道の先には大型ショッピングセンターが見えている。
「毎週ってくらい来てたよね。北斗くんと」
隣を歩く彼がまた嬉しそうに笑った。「覚えてくれてたんだ」
「忘れるわけないよ」
ショッピングセンターの中に入ると、左手にあるエスカレーターへと進もうとした。
高校時代に彼とよく訪れた映画館やカジュアルなカフェがあるのはこちらの方向だったはず。
ところが北斗くんは私の肩をちょんとつついて、右を指差した。「こっち」
右手にはデパートがある。
高校生には縁のない場所である上、この辺りは関西一の高級住宅地に近いから客層もそれ相応で、入店するのさえはばかられる雰囲気を当時の私は感じていた。今だってそうだ。
昔みたいに気軽に入れるカフェで良いのにと内心思いながら、最上階の喫茶店へと向かう北斗くんの背中を追った。
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爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
