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「A、口開けて？」
大我さんは真剣な表情をして、私に顔を近付けた。
つい赤面する。「……やだ」
「お願い。ほら、イーってして？」
仕方なく、口をわずかに開いた。
「あー。やっぱ昨日より何ミリか歯がすり減ってるわ」
コンビニで買ってきた乳酸菌飲料にストローを差しながら、彼はフハハ！と吹き出している。
急いで自分の口を押さえた。「しつこいですよ、さっきから」
「Aの歯ぎしりのせいで一晩中眠れなかったの」
「それは……ごめんなさい」
あろうことか、爆睡してしまった。
この人の腕の中で。一晩中。
アラームの音と共に目を開けたところ、鼻先にあったとんでもなく綺麗な顔に「おはよう」と告げられた時は絶望したけれど、体調はすこぶる良かった。朝まで一度も目が覚めなかったのは何年振りだろう。
他人の体温には、底知れぬ催眠効果があることが分かった。
「耳元でキリキリ、やっと収まってこっちが寝ようと思ったらまたキリキリ」
「だから謝ってるじゃないですか」
「絶対昨日より歯がちっちゃくなってるって」
大我さんは前に身を乗り出した。「運転手さんもそう思いますよね？」
後部座席のやり取りは聞かなかったことにして運転に集中しようとしていたであろう気の毒な運転手さんは、「へっ！？」と突飛な反応をした。「わ、私は今日初めてお会いしたので……」
慌ててその体を後部座席に引き戻し、睨みつける。
この秘書、跡取り息子相手にやってんなって絶対勘違いされた。最悪だ。
大我さんは私の錯乱などお構いなしの様子で、「じゅ〜りじゅ〜りじゅり、田中の子ぉ〜」と呑気に替え歌を口ずさんでいる。
「ご機嫌ですね」
「久し振りに樹に会えるから」
この人が誰かに会うのをこんなに楽しみにしているのは初めて見た。
「ジュリって？」
「関連会社の頃の同期。今うちの大阪支社に出向してんの」
昨夜の串カツ店をお勧めしてくれたのが、そのジュリさんらしい。
「あ、Aはあんまあいつに近付くなよ？」
大我さんは急に真面目な顔になって言った。「あいつはキケンだ」
ジュリさん。
２人はどんな関係なんだろう。
私がジュリさんに会うことが危険。
つまり、大我さんと私の間のあれこれをジュリさんに知られることが危険だと。
そんなに大切な人なんだ。
橋本さんの嘘つき。
なんとなくむっとしてしまい、私は黙って窓の外を見やった。
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爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
