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大我さんの手が私のそれを包み込む。
彼の体温が指先から侵入し、全身を駆け巡るような感覚に襲われた。
どうしよう。
心地いいのに、やっぱり苦しい。
なんだろう。
「良い思い出って何？」
彼が掠れた声で尋ねる。
「……え」
「梅田での良い思い出って？」
体の力がわずかに抜けた感じがした。
「両親が生きてた頃、よく家族で来たんです」
「そうなんだ」
「弟が観覧車に乗りたがるのに、頂上近くになったら怖がって私にしがみついてきて」
「かわいいな」
うちの弟は世界一かわいかったんですよ、と少しだけ微笑んだ。
「アイドルの写真を売ってるお店にもよく行きました」
「テレビの中の男は大丈夫なの？」
「その頃はまだ、男の人が苦手じゃなかったので」
「……じゃあ、悪い思い出は？」
私は静かに目を瞑る。
「……ごめん。忘れて」
震え出した私の手を、大我さんがきゅっと握り直した。
あの朝の両親の表情。
何も知らない弟がアパートへ無邪気に駆けていく姿。
あの時ドアノブに置いた私の手は、今と同じように震えていた。
１日たりとも忘れたことはなかった。
あの日に戻れたら。
全てやり直せたら。
幾度となく繰り返してきた問いを、今夜も私は重ねている。
「子供の頃にさ」
手を繋げたまま、大我さんが仰向けになった。「よく夢でうなされて、夜中に目が覚めることがあったの」
彼の家に行った日のことを思い出した。
「そんな時は親父の部屋へ行って、ベッドに潜り込んで。そしたら親父が俺を抱き締めて、背中を優しく叩いてくれるんだよ」
恐る恐る、私は後ろを振り返った。
「背中をこう、とんとんって。『大我はいい子だ。だから大丈夫だよ』って」
繋がっていない方の手を胸の前に上げ、彼はふわっと指を動かした。「そしたらまた安心して、よく眠れた」
「……そうですか」
「本当に安心するんだよ」
ランプの灯りに照らし出された明るい髪が、枕の上に広がっていた。
視線はぼんやりと天井に向けたままだ。
無造作に広がった髪が、朧気な瞳が、妙に艶めかしかった。
引き寄せられるみたいに目を奪われてしまう。
「……それを、私にしたいってことですか？」
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爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
