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待ち人は来ない。
こちらが用事のある時に限って。
お酒と香水の入り混じった大人の匂いを漂わせて私に絡み、顔見知りの学生バイトからはぞんざいにあしらわれるのが常の、夜遊び帰りのあの人のことだ。
もう受付係ではないから、以前のように会社で顔を合わせる機会もなかった。
あんな人物を頼りにする日が来ようとは、ついこの間まで想像もしていなかった事態だ。
「……どうして来ないかなぁ」
夜遊びを卒業したとか。
それはないか。社内一のプレイボーイに限ってそんなこと。
「誰か待ってるんですか？」
普段と同じく、隣のレジの下で分厚い雑誌をめくりながら作間くんが尋ねる。
「うん、橋本さんを」
バサッと大きな音がした。
読みかけの雑誌が床に落ち、信じられないという表情がこちらを見つめている。「……橋本さんに会いたくて、待ってるんですか？」
「うん」
私から視線を逸らし、不自然に硬い動きで彼は雑誌を拾い上げた。何も言わないけれど、少しだけ歪んだ口元が何やら不満気な感じ。
「……違うからね？ 聞きたいことがあるだけ。最近会社で会ってないから」
いや別にいいですけど、と作間くんはぼそぼそ呟く。
「作間くんって、ここで働く前から橋本さんとお友達だったんだよね」
「違います友達なんかじゃありませんやめてください」すごい早口で食い気味の答えが返ってきた。
「……彼女が、中学時代に橋本さんと付き合ってたらしくて」
「へー。作間くんとあの人、全然タイプ違うのにね」
「あともうひとつ、偶然にも共通点があることが判明したんですけど不可抗力ながら本当に不本意で」
「なんのこと？」
私の質問どころじゃない様子の作間くんは、カウンターの上へ雑誌を置くと急に近寄ってきた。「道枝さんは、僕と橋本さんならどっちがいいですか」
「……いいって？」
「どっちがいい男だと思いますか」
彼女の元カレに嫉妬しているのか。
大人びた見た目をしているけれど、年相応なところもあるんだな。なかなか可愛らしい。
「……普通に作間くんだと思いますが」
えぇ〜ほんとですかぁ？と彼はご機嫌そうにへらへらし始める。やはり面白い子だった。
「道枝さん、休憩のとき僕の炊飯器からおにぎり作って食べていいですよ」
「いらないです」
再び雑誌を開いて彼が言った。「それよりあの人は、結局あれ以来こないですね」
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爽 - 続編消えたと思って焦りましたw続き読んだらドキドキし過ぎて一瞬で持ってかれました。 (2021年7月26日 14時) (
レス) id: 69f8ee2e96 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - 爽さん» だいぶ大人なお話になってきましたが、今後ともよろしくお願いします！ (2021年7月22日 21時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
爽 - キャンディタフトとは違った少し大人なこの作品も好きだなって思いながら毎回楽しみなです。 (2021年7月14日 14時) (レス) id: 9c49d7f5d5 (このIDを非表示/違反報告)
真澄(プロフ) - みなこさん» コメントありがとうございます。16章は２人の距離がすごく縮まっていくのでぜひ読んで頂きたいです！ (2021年7月3日 8時) (レス) id: e861df9d71 (このIDを非表示/違反報告)
みなこ(プロフ) - 二人の距離がもどかしくてすごく続きが気になります笑 (2021年6月30日 0時) (レス) id: 58140af225 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：真澄
| 作者ホームページ：https://twitter.com/masumi_chu
作成日時：2021年5月21日 14時
