とあるメイドの恋事情【尾関光希】 (ページ6)

今日:33 hit、昨日:9 hit、合計:28,222 hit

6話ページ6

.

よく立ち寄る近所のスーパー
毎週通っていると、自然に常連客や店員などの顔は覚えてくる

子連れの主婦やお疲れ顔のサラリーマン、言い合いをする老夫婦

の中で、いつもいる一人の女性

一つ一つ食材を手に取り、眼鏡の奥で光る真剣な眼差しで
品質を確かめている

惣菜コーナーや冷凍食品売り場には一切立ち寄らずただじっくり

今日はピーマンだ

他人の買い物を眺めるなんて嫌なものだが、
俺の中でのちょっとした名物になっていて

あわよくば目利きのコツなど教えてもらえたらなんて

そう思っていた

その日は朝から熱に喉に鼻で
職場にも休むと連絡を入れ、大人しく布団に入っていた

食欲もわかないから朝と昼は抜かしたけど、
流石に夜はお腹が鳴った

冷蔵庫には何も無いので適当に厚着してマスクをつけて、
いつものスーパーへ

手当り次第に必要なものをカゴに入れる
精肉コーナーの冷気でさえ身体に刺さるな

やっぱり早く帰ろう

鶏肉セールだ。最後の1パック、ラッキー

「『あっ』」

ぼーっとしていて、隣も狙っていたなんて気づかず、
小さくて冷たい手の上に自分のを重ねてしまった

横を見ると、名物である彼女。きょとんとした顔で
お互い固まった

いつもの鋭い目でなくて、丸く透き通っている目で俺を映す

尾「…あっ、すみません」

『いえ。…これ、どうぞ』

尾「いやいや。俺の方が後だったので」

どうぞどうぞと譲り合っていると突然の寒気に身体が震え、
咳が出る

それがなかなか止まず、相手にも気を使わせてしまった

『…わかりました。鶏肉は私がありがたく頂戴いたします。

その代わりと言ったらなんですが、代用のレシピを、
試してみてはくれませんか』

尾「えっ、？」

俺のカゴを持った彼女は待っていてとどこかへ歩き出し、
ものの数分でわざわざ走りながら戻ってきた

カゴの中には何個か増えている食材
口頭でレシピを説明して、念の為とメモまで渡された

尾「……簡単ですね」

これしか言えなかった

ただのお人好しでは足りない。職業柄か？

そういえば力仕事には慣れているって言ってたな

食に対する幅広い知識に頭の回転の早さ、

いたっ

はぁ、職業柄なのは俺の方か

もう深く考えるのはやめよう。頭に響く、

『…から、…

私は、好きです』

え、…

.