FF15短編集【男主】 (ページ6)

今日:1 hit、昨日:24 hit、合計:3,134 hit

イグニス　３ページ6

イグニスside

先ほどからAはケーキに手を付けようとしていなかった。つついてばかりでこちらをちらちらと伺うように見てくる。やはり遅刻したことを怒っているのだろうか。それはそうか、何の連絡もなく１時間以上待たせていたのだから。

突然にやつき始めた彼に声をかけると、何のこわばりもないいつもの穏やかな声と顔で「懐かしいと思って」と聞かされると、自分の緊張もほぐれてきた。

今日彼を誘ったのは、５人で旅をしていた時に彼が甘いものが好きだという事に気づいたからだった。出向いた先では一人でさっさと散策しに行くしその手土産に甘いものを買って帰ってくるなんてことはざらで、夕食にデザートを作ると目を輝かせていた。

それを見るのが楽しみになっている自分もいて、こっそりとスイーツのレシピを探したこともあったし、久々の休暇というのも重なって彼のその顔が見たいと思い誘ったのだった。

彼にはノクトにスイーツを作ってふるまいたいと言って誘った。それは嘘じゃない。

根詰めて復興のために動いている彼に甘いものをふるまいたいという気持ちに嘘はないのだが、俺はどうも誘い文句の一つも思いつかない堅物なようで、何か理由をつけずには誘う事すらできなかった。ただ「一緒に出掛けないか」と言えばいいだけだというのに。

皆とまた食事ができればいいなと伝えるとまた笑顔で返事を返してくれたが、そのあとの会話がなくまた俺はケーキを口に運ぶ。大好きな甘いものを目の前にしてなぜか表情表情が硬くなっていく彼は小さくため息をつくとようやくケーキを切り分け口に運ぶ。

すると甘いものでホッとしたのかうっすらと笑みを浮かべ、口に入れていたフォークを引き抜く。

「ついてるぞ」

どうやらフォークについていたクリームがフォークを引き抜いたせいで口の端についてしまったらしい。
きょとんとしてこちらを見てくる彼が子供のように首をかしげてこちらを見てくるので、テーブルに備え付けられている紙ナプキンを取るとそれをふき取ってやる。

Aは何が起こったのかわからないのか暫く首を傾げ俺を見つめていたが、紙ナプキンと俺を交互に見やっていくうちにどうやら状況が飲み込めたようで、フォークが手からポロリと落とし口をパクパクさせながら顔を赤くし始めた。

俺はその微笑ましい姿を眺める。

この姿は誰にも見せたくないなと、独占欲を抱いたことも気づかずに。