第42話 ページ44
「・・・・・・あいつを、愛していたのか?」
ジャックに聞かれ、Aは困ったように顔を顰めながら押し殺したような声で答えた。
「分からないの。本当に、大嫌いだと思ってた。憎んでも憎みきれないぐらいだと思ってた。
なのに、涙が__」
涙が、理由もなく零れ落ちる。ジャックは眉尻を下げると、辛そうに泣き続けるAの隣に座った。そして彼女の悲しみで歪んだ横顔から、着ているドレスへと視線を移す。溢したワインのように地面に広がるそのドレスに身を包んだAは、お伽話に出てくる美しい姫のようだ。
ジャックはふっと微笑むと、口を開いた。
「そのドレス、お前にすごい似合ってる。
あいつ、いいところが一つあったとしたらそりゃ物を見る目だったからな。」
その言葉に、Aは泣くのをやめて顔を上げた。
「ジャック、それはどういう意味で・・・・・・」
だがジャックは意味深げに笑っただけで、その場から立ち去ってしまった。一人残されたAはため息をつきながら今の言葉はどう言う意味だろうと思いを巡らせる。物を、見る目__彼は、このドレスを買ったと言っていたっけ。
"それは金を出して買った物だ__特別な相手のためにな。"
彼の特別な、相手。
その瞬間、Aの脳裏に次々と記憶が蘇ってきた。
ドレスに文句をつけたエリザベスに言った、あの言葉。
___"当たり前だ。お前の為に手に入れた物じゃないからな。"
サイズが合っていないとエリザベスは言っていたけれど、私が身につけた時にはぴったりだった。
亡くなる寸前に私を一目見た彼の水色の瞳に浮かんでいた、切なげな色。
時が止まったように思えたその瞬間、彼の瞳には私だけが映っていた。
そして、今のジャックの言葉。
___"そのドレス、お前にすごい似合ってる。
あいつ、いいところが一つあったとしたらそりゃ物を見る目だったからな。"
ああ、待って。
そんな、まさか。
このドレスを長年大切に取っておいた理由。
エリザベスが着た時に彼が驚いた理由。
私に着ろとしつこく命令してきた理由。
このドレスは最初から、エリザベスや他の女性の為ではなかったのだ。
このドレスは、
「私の、為に・・・・・・?」
彼の特別な人は、つまり___
最後まで、気づけなかった。零れ落ちる涙の理由が見つかり、Aは冷たくなった彼に縋り付きながら嗚咽した。
311人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
バーツ(プロフ) - 初めまして。今回の作品で改めてパイレーツ・オブ・カリビアンが好きになりました。とても素敵なお話でした。これからも主人公たちの冒険を見れることを心より願っています。 (2023年2月5日 16時) (レス) id: fdda18a68f (このIDを非表示/違反報告)
の〜ん(プロフ) - 初めまして。一昨日金曜ロードショーで映画を見て、また再熱しました!作品の方ですが、読み始めると止まらないくらいとっても面白かったです!素敵な作品に出会えてよかったなと思いました!本当にありがとうございました! (2023年1月22日 23時) (レス) id: b67a47aa93 (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - はじめまして!この素晴らしい作品に出会えたことにとても感動しました。とても面白かったです。最高!! (2022年9月12日 13時) (レス) @page36 id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
oceane(プロフ) - つじさん» 初めまして。最後まで読んでくださった上にそう言って頂けて、感謝の気持ちでいっぱいです...!こちらこそ、暖かいお言葉ありがとうございます。 (2021年9月12日 22時) (レス) id: 8c5911a62b (このIDを非表示/違反報告)
つじ(プロフ) - 初めまして、公開から何年もたった今、こうしてこの作品の小説が読めることに感動しました。とても面白かったです、本当にありがとうございました。 (2021年9月12日 3時) (レス) id: 87b029d90b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:oceane | 作成日時:2018年12月19日 21時