雀と林檎と黒真珠

第36話 ページ38

＿＿＿十年前のブラックパール号。ちょうど同じ状況だった。



ジャックが一等航海士のバルボッサに裏切られ、反乱を起こした直後の事。あの時も、ジャックは島に置き去りにされる為に板の上に立たされていた。自分の幸せが一瞬にして壊されてしまった事があまりにもショックで何も言えないAに、バルボッサがら言い放った。


「最後に言葉をかけるなら今だぞ。」


Aが茫然とした状態でジャックの方へ歩み寄る。彼はここが俺らの航海の終点だな、とでも言いたげな顔をしていた。けれど、Aはここで終わりだと信じたくなかった。ジャックがこのまま死んでしまい全てが忘れ去られてしまうなんて、考えるだけで胸が張り裂けそうだったのだ。




終わりたくない、嫌だ。この反乱が夢だと言って欲しい。まだ冒険は始まったばかりだと、まだ一緒にいられるのだと。ここが終わりじゃないと言って欲しい。嘘でもいいから、忘れないと言って＿＿



「私を忘れないで。」



いつの間にか、勝手に言葉がAの口から紡ぎ出されていた。すると、いつものジャックの口説くような口調の声が返ってくる。



「お前の事、毎日想うぜ。」



得意げな笑みを浮かべ、Aの事を見つめるジャック。彼の目はそれでも少し切なげに見えた。そして数秒後、弾が一発だけ込められた銃がバルボッサの手によって海に投げ込まれる。ジャックは海へ自ら飛び込む寸前、最後にAの方に振り返り、言った。


「約束、だ。」


そして次の瞬間、ジャックはブラックパール号から飛び降りていったのであった。





・*・




「＿＿＿心配するなって。あれから俺の心は変わってない。」



ジャックの声で、Aは一気に過去の思い出から引き戻された。そして辺りを見回す。やっぱり状況は十年前と全く同じだ。


「私もよ。」


そうAが囁くと、ジャックはいつものようにニヤリと笑った。だがその時、バルボッサの冷たい声が響いた。


「さあ、早く飛べ、ジャック。」


バルボッサがピストルを海に放り投げると、すぐにジャックが飛び込もうとする。だがその瞬間、バルボッサが彼を引き止めて、言った。


「＿＿ブラックパールは諦めるんだな。」


それを聞いたジャックはバルボッサの事を睨みつけ、Aへと視線を移した。ブラックパール、その言葉が船以上のものを指している事は分かっていたのだ。



そして次の瞬間、ジャックは海へと飛び込んでいった。

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