第22話 ページ24
船長室。ノックの音が聞こえるなり、バルボッサはほくそ笑みながら答えた。
「入れ。」
するとゆっくりとドアが開き、女性の影が現れる。そこには黒真珠のようなドレスに身を包んだAが立っていた。
Aは部屋に入るなりバルボッサの事を海色の瞳で睨みつけると、船長室を見渡した。前見た時よりも傷や汚れが目立つし、心なしか部屋全体が暗い。前は全てがピカピカに磨かれ、埃一つ舞っていない煌びやかな船長室だったのに。
一通り見渡した後、Aは部屋の真ん中に置かれたテーブルに視線を落とした。かつては三人で囲んだテーブル。今はワイングラス二杯が寂しげに乗っているだけだ。
既に席についていたバルボッサがAに座るように目配せすると、彼女はぎこちなさげに腰掛ける。するとバルボッサがグラスにワインを注ぎ始めた。それを見たAがすぐに口を挟む。
「悪いけど、ワインは____」
飲めないの、そう続けるようとした瞬間、バルボッサが遮った。
「お前が酒に弱いことぐらい、覚えている。」
その言葉を耳にしたその瞬間、これまで目の前の男への嫌悪感で満ちていたAの心がほんの少し軽くなった気がした。
覚えていて、くれた。ほんのちょっとした事なのに、覚えていてくれて何故か胸が熱くなった。それもそのはずだ。そう心の中で呟く。だって、かつて共に航海した仲だから。一緒に戦い、笑い合い、支え合った仲。ヘクター、とファーストネームで呼べた仲。
_____そんな仲、だったのに。今はもうヘクターとは呼べない。
今、彼は目の前にいるのに、あまりにも遠い・・・・・・
そう俯いてしまったAに視線を向けながらバルボッサはワインを注ぎ続け、言った。
「だが少し酔いが回った方が話しやすいだろう。」
「何が聞きたいの?」
「・・・・・・どうやって、ここに行き着いた?」
その質問に、Aはため息をついてグラスに手を伸ばし口へ運んだ。美味しい、と小さく呟くと再びため息をつき、重々しい口調で話し始める。
「貴方が裏切った後、私は宝の山に手をつける気なんて全くならなかった。でも、そしたら私以外みんなが呪われて、ビルもいなくなってしまって。もう私は見ていられなくなった。だから・・・・・・」
ここでAは俯いていた顔を上げ、バルボッサの水色の瞳を真っ直ぐ見つめた。この話の続きは二人とも知っている。
「でも、どうやってここから逃げたかは覚えているわよね?」
311人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
バーツ(プロフ) - 初めまして。今回の作品で改めてパイレーツ・オブ・カリビアンが好きになりました。とても素敵なお話でした。これからも主人公たちの冒険を見れることを心より願っています。 (2023年2月5日 16時) (レス) id: fdda18a68f (このIDを非表示/違反報告)
の〜ん(プロフ) - 初めまして。一昨日金曜ロードショーで映画を見て、また再熱しました!作品の方ですが、読み始めると止まらないくらいとっても面白かったです!素敵な作品に出会えてよかったなと思いました!本当にありがとうございました! (2023年1月22日 23時) (レス) id: b67a47aa93 (このIDを非表示/違反報告)
RENKA - はじめまして!この素晴らしい作品に出会えたことにとても感動しました。とても面白かったです。最高!! (2022年9月12日 13時) (レス) @page36 id: 345a1df315 (このIDを非表示/違反報告)
oceane(プロフ) - つじさん» 初めまして。最後まで読んでくださった上にそう言って頂けて、感謝の気持ちでいっぱいです...!こちらこそ、暖かいお言葉ありがとうございます。 (2021年9月12日 22時) (レス) id: 8c5911a62b (このIDを非表示/違反報告)
つじ(プロフ) - 初めまして、公開から何年もたった今、こうしてこの作品の小説が読めることに感動しました。とても面白かったです、本当にありがとうございました。 (2021年9月12日 3時) (レス) id: 87b029d90b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:oceane | 作成日時:2018年12月19日 21時