雀と林檎と黒真珠

第18話 ページ20

海賊二人に荒々しく両腕を掴まれたまま、Aは乱れた黒髪越しにバルボッサの事を思いっきり怒りを込めた眼差しで睨みつけた。だがバルボッサは彼女の形相にたじろぎもせず、嘲るような変わらぬ口調で話しかける。

「何だ、感動の再会で口も聞けなくなったか？」


その言葉に、エリザベスは信じられないとでも言いたげな酷く困惑した表情をすると同時にAを咎めるような目つきで見つめた。


「待って、A。この海賊達を知っているの？どういう事？」


Aは何かをエリザベスに言い返そうとしたが、バルボッサの方が早かった。


「ミス・ターナーにはもうお引き取り願いたい。･･････部屋に連れて行け！」


そう部下の海賊に指示を出すと、バルボッサはAの方に向き直ろうとした。だが、またもやエリザベスが反論をし始めた。


「私を港へ返して！掟によれば＿＿＿」


バルボッサは呆れたように目を回しながら振り返ると、馬鹿にするような口調で返した。


「いいか？掟はルールと言うよりも心得のようなもんだ。
　おい、早く連れて行け！」


抵抗する暇もなく無理やり部屋へ連れて行かれるエリザベスを横目で捉えながら、Aは俯いて床を見つめたまま、思考を巡らせていた。


　＿＿今、なんて言った？

ミス、･･････ターナー？


何故、エリザベスは嘘を･･････？





「＿＿出港の準備をしろ。」


バルボッサの声でAは我に帰った。そして冷や汗が背中を伝う。"出港の準備"･･････？自分はまだこの船から降ろされてない。港に戻らないと、このままでは駄目だ＿＿そう考えながら、Aはゆっくり口を開いた。


「私を、今すぐ船から下ろして。」


彼女の声には焦りや怒りなどの感情は一切含まれていなかった。ただ単に、ここから一刻も早く立ち去りたいと言う強い思いだけで。彼女の冷静さに内心少し驚いたバルボッサはAの事を改めて見つめた。

やはり、彼女はどこか一目おいてしまうような気品がある。その華奢な体を包み込んでいるナイトガウンでさえ優雅なドレスに見えてくるほどだ。両肩にはらりとかかる見事な黒髪、そして胸元には忘れもしない黒真珠のペンダント。

＿＿＿かの"黒真珠の女"が今、目の前に。バルボッサはニヤリと笑いながら、心の中で呟いた。


「船から下ろせ」、だと？

悪いが、俺はやっと見つけた宝をそう易々と手放す男じゃない。

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