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「翔太」
歌が途切れた瞬間に名前を呼ばれビックリする
ふわりと翔太をブランケットでくるんだのは佐久間
ベンチに座る翔太の前にかがみ翔太の顔を覗き込む
佐久間「やっぱり翔太の歌声は最高だね」
そう言ってふわりと触れられた手がとても温かくて、自分の手が冷え切っていた事に気が付く
佐久間「でも、ほら、やっぱりこんなに冷えちゃって、ダメじゃん?お部屋帰ろ?」
翔太「ん、…分かった」
立ち上がり帰る前にもう一度だけ月を見上げた
佐久間「今日よく見えるねぇ、綺麗…」
翔太「ね、綺麗」
翔太の月に照らされた白い横顔がなんだか儚くて
消えてしまいそうで、そんな横顔を眺めていたら
急に泣きそうになってしまった…
そんな気持ちを隠すように口を開く
佐久間「やっぱり月ってさ、
うさぎいるよねぇほら見えるもんっ」
翔太「え?あぁあれね、確かにねぇ」
ふははっていつもの笑い声が夜の中庭に響いた
カラカラと点滴スタンドを転がしながらの帰り道
翔太「ッケホ…ケホ…」
少しむせただけだけど佐久間は異常に心配する
翔太の背中を優しくさする佐久間
佐久間「…大丈夫?この時期風邪引きやすんだから
お外行くのも昼間の温かい時間にしなよ?」
翔太「ちょっとむせただけじゃんっ」
もぉなんて言われつつも、すぐについてしまう病室
佐久間「到着〜」
と病室前まで送ってくれて佐久間は
ナースステーションへと帰った
ベッドにもたれふぅっと小さく息をはく
まるっきり夜みたいな空気感に錯覚していたけれど、時計を見るとまだ18時ピッタリ
なかなかしない夜の散歩に癒やされた?
というのだろうか、心が静かに落ち着いていて
でもどこかワクワクした気持ち良さを感じた
そしてまたふわっと鼻歌を歌ってしまう
こんな生活の中でも時間は平等に過ぎていく
点滴がポタリポタリと
決まったスピードで落ち続けるように
この夜空は明日の朝には明るくなる
そんな日を繰り返していつか
ここを退院する日が来るのかな…
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作者名:まめり | 作成日時:2023年10月26日 15時