婿に入る ページ2
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2009年7月
その日は甚爾が来る筈だった日だった。
母は早く支度を済ませて、上機嫌になっていた。
その頃、私は気づいていた。
「禪院」ではなく「伏黒」と姓が変わっていた。
たまたま仕事の電話を聞いていたから。
「とーじおいちゃんはぜんいんじゃなくてふしぐろなの」
そう母に言ってしまった。
「何で?」
「むこにはいったからだって」
そして息子がいるのも私は知っていた。
“婿に入る”の意味を知る由もない私は母に髪の毛を引っ掴まれて怒鳴られた。
「そんなわけないじゃ無い!!嘘だって言って!」
「痛い、痛いよ」
母のおかげで、“痛い”という言葉は繰り返し口にしていた。
甚爾が来ていたらもっと修羅場になっていただろう。
だがその日から、姿を消した。
あれから母は水商売に手を出し、ホストに嵌った。
私もバイトで働き詰め。
母は散財ばかりなので収入源は私だ。
そうしていつの間にか、私はことの発端である彼を憎んだ。
そして今に至る。
母は弱い人間だ。弱い奴ほど捨てられる。
私もいつか、母を捨てる。
すると事が済んだのか、母と男はこちらにやってきた。
「あら、帰ってたのね。A」
男はニヤニヤとしながら言った。
「わぁ、娘さんか。似ていて綺麗だね」
舐め回すような視線が気持ち悪い。
「母さん、話があるの」
まだ男は視線を注ぐ。
「もう貴方は帰ってちょうだい」
そうキッパリ母が言うと男は諦めてすごすごと帰っていった。
何故甚爾を思い出していたか、学校帰りに言われた言葉が脳をよぎった。
「キミ、見えてるでしょ」
白髪目隠しの男は、私の世界を共有していた。
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作者名:朧 | 作成日時:2024年1月28日 9時