ごじゅうろく ページ6
今日は久しぶりにカレンダー通りのオフの日で。
Aの実家に行くには、今日しかないと思った。
ご両親は確かどちらもまだ現役で働いていらっしゃるし、カレンダー通りの勤務だって言っていたような気がする。
お昼前頃に着くようにと車を走らせると、思いのほか道が混んでいてカレンダー通りとはどういう事なのかを思い知らされた。
「ここ、どう行くんだっけ」
今までなら「ここ左!」って言いながら右を指さしてみたり、十字路をすぎてから「あ、、、今のとこ右だった」って申し訳なさそうに眉を下げたりするAが隣にいて、道案内のようなものをしてくれていたのに今はおれひとりで。
住所も覚えていなかったから、なんとなくの勘でAの実家を目指す。
少し前に、一度車で行っただけのシゲの彼女の勤め先まで勘で行けたから、三度ほど訪ねているAの実家には辿り着ける自信があった。
ようやく見えた見覚えのある一軒家のちかく、邪魔になりにくい所に車を停めると心臓がバクバクと大きな音を立てはじめる。この前、電話で少し話した時以上に拒否されたらどうしよう。とか。もうおれじゃない男がいたらどうしよう。とか。嫌なこと考え出したら止まらなくなる。
なにも考えずに来てしまったけれど、ご両親にどの面下げて来たんだとか言われてしまうかも。
震える指で、インターホンを押す。
『はい』
「お世話になってます、増田です」
『、は、、いま、でます』
驚いたようなAのお父さんの声。
すぐに『え?!』なんてAのような女性の声がするけれど、少し違ったからお母さんの声なんだと思う。
ドアの向こう側から鍵を開けるような音がして、それからドアが開く、と。目の前にはA、、ではなく、Aとよく似たお母さんが目をまん丸にして立っていた。
『こんなところまで、ありがとうございます』
『Aはここに帰ってきている訳じゃないから、いないけれどよかったら上がって行ってください』
「あ、でも」
『誰かに見られて噂になったら困るでしょう?』
そう言われると、なにも言い返せなくて促されるがままお邪魔する。
リビングに繋がるドアからは、不安げな表情を浮かべたお父さんがこちらを見ていて。慌てて頭を下げた。
『こんなところまでありがとうございます』
お父さんもこちらに向かって頭を下げてくださって。
勝手に、『帰ってください』なんて言われると思っていたから拍子抜けした。
「いえ、突然押しかけてすみません」
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