7日目 ページ10
『っは…、はッ……、はぁ…っ、、』
凍えるほど寒い冬の時期。
時計の針は12時を過ぎていた。
いつまで経っても帰ってこない迅。
宇佐美に聞いても、小南に聞いても、携帯にかけても、彼は反応しなかった。
私のサイドエフェクトは、外にいる彼を映し出している。
ベンチの上で横たわって、目を瞑る彼が視える。
この光景は一体何時間前のものなのか、何日前のものなのかは分からないけれど、彼を迎えに行けるのは私しか居ないと思った。
寒い冬の中、私は生身で走っていた。
手当り次第、ベンチがある公園を見て回った。
耳が冷えて頭が痛くなる。
手が悴んで痛くなる。
足が縺れて動かなくなっていく。
走っていた足が、彼を視認してゆっくりと止まっていった。
『迅』
ゆっくりと、彼の瞼が開かれていく。彼の青い目が私を見つめていた。
迅「はは、やっとあえた、」
彼は力なくそう言った。
ベンチから身体を起こして、目の前に居る私の腕を引き寄せた。
周りには誰もいない。
時計は1時頃を指していたと思う。
迅「待ってた」
『帰って来れば居たのに。』
迅「Aは、おれと会ってくれないだろ」
避けてたくせに。
言葉が静寂に響き渡る。
彼とくっ付いている部分だけが温もりを帯びていく。
彼の冷たい指先が私の服を掴んでいる。
トリオン体では、なかったらしい。
『部屋に来れば良かったじゃん』
迅「Aだけが気づいてくれるとおもった。おれのわがままだよ」
『ありえない』
今、迅の眼には、何も視えていないのだろう。
私の眼には迅の過去が絶えず流れ込んでいるというのに。
馬鹿な彼を1発でも殴ってやればよかった。
なのに、馬鹿な私は彼を責めるのことも、叱ることも、殴ることも出来なかったのだ。
私たちは久しぶりに隣を歩いた。
どちらが歩幅を合わせているのかなんて分からなかった。
冷たい手を握って、このまま海の中へ2人で潜り込んでしまえば、冷たさなんて感じなさそうだと
密かに考えた。
馬鹿な迅と帰ったのは1時半をすぎた頃だった。
私は手を繋いだまま彼のダンボールだらけの部屋に入って、汚い服で 2人抱き合って眠った。
未来が怖いと怯えていた、あの時の悠ちゃんを抱きしめているようだった。
迅「おやすみ、A」
あの時と変わらない、ような気がする声に、匂いに沈んで
『おやすみ、悠ちゃん』
決して暖かくない布団の中で、私たちは小さく抱きしめ合った。
存在を確かめるように。
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作者名：いちごおれ?? | 作成日時：2023年2月20日 23時
