██日目 ページ43
『ねぇ、悠ちゃん。悠ちゃんまって、』
手を伸ばして、彼の青の服を掴む。
進んでいた彼の足は止まった。
私は肩下まで海水に浸かってしまった。
『迅。』
後ろから、逃がさないように彼の背中を抱きしめた。
『寒いよ、迅。戻ろう、』
怖くて、寒くて、足が、声が、震える。
迅「どうしたら、生きてていいって思えると思う？」
いつまでも彼の瞳は海の先を見つめている。
迅「生きなくちゃと思って生きて、おれの気持ちはどうなるんだろうな」
彼の声が、確実に私に届く。
私が救えなかった彼がこれなのか。
『じゃあ、生きなくちゃと思わなくたっていいよ。頑張らなくていいよ、こうなるくらいなら、ボーダーなんて抜け出して、ずっと私と一緒に居よう。』
そうしたら悠ちゃんだけは人間でいられる。
なんにも変わらないよ。
私の目に涙が滲む。
そこは迅が泣くところじゃないのか。
迅「未来を見てると、手に入らない良い未来ばっか欲しくなるんだ。」
私の腕を解いて、
前に進んでいく迅。
迅「Aのサイドエフェクトは、おれの為なんだと思ってた。」
迅が振り向く。
その顔は笑っている。
無理してる顔だった。
迅「だいたいおれのせいなんだ。全部」
『そんなことない。』
迅「視えるのに、誰かが不幸になるのはおれのせいだ」
『迅は神様でもなんでもない。』
私の言葉は、彼に聞こえているだろうか。
『悠ちゃんは人間だよ。今も、昔も、ずっと。生まれた時から。神様なんかじゃない。』
迅「A」
『悠ちゃんが覚えてないくらい幼い時の事を、私は知ってる。』
風で、私色の迅の髪の毛が靡いている。
『私には、悠ちゃんの救い方が分かんないよ、。どうしたら戻って来てくれるの？どうしたら、笑ってくれるの、』
迅「A、Aは、」
『うん』
迅「おれの傍から離れないで」
『…泣き虫な悠ちゃんのこと、置いて行けるわけない。』
迅悠一は泣けない。
それでも彼は、私の元まで寄って、
私を抱き締めてくれた。
『キスしよう』
何だったんだろうと思える恋をしよう。
意味のわからないキスをしよう。
誰にも理解できない愛にしよう。
歪でいい。
私たちにしか分からなくていい。
今も昔も変わらず、私たちにしか過去と未来は分からないんだから。
濡れた手で頬に触れて、私たちはキスをした。
嗚咽が聞こえた気がしたが、波にさらわれてしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：いちごおれ?? | 作成日時：2023年2月20日 23時
