海底に棲むきみ【迅悠一】 (ページ40)

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26日目ページ40

防衛任務後の事だった。

『ねぇ、迅！ふざけないでよ！！！』

彼の服を掴んで、引っ張る。
いつも通り彼は涼しい顔をして居た。

『換装してないのに、なんで飛び出すの！？』

包帯が巻かれている彼の身体。
この前とは理由(ワケ)も量も違った。

迅「いやぁ、いつもトリオン体で過ごしてると、感覚おかしくなっちゃうね」

"いつも通り涼しい顔"で、そんなことを言う迅。

嘘だ。

絶対に嘘だ。

嘘をつく時の顔だもの。
察しないでと、おれは大丈夫だと距離を置く時の顔。

本当に迅はいつまで経っても救われてくれない。

私に救われてくれない。

『迅の嘘つき。迅のばか。私が心配するって知ってるのに』

こんな時、私はいつも彼を攻められなくなっている。
彼を殴る事も、彼を叱ることも出来ない。

あまりにも彼は遠くにいる気がして。
手の届かないところにいる気がして。
伸ばした手が本当に届かないのだという事実を知りたくないのだ。きっと。

私はあまりにも、自分しか見れていない人間なのだ。

迅「なんでAが泣くんだよ。」

私が泣くのを知っていて、彼はいつもこう言う。
そして必ず、後にこう続けるんだ。

迅「ごめんな」

聞きたくないその言葉に、私は"うん"と頷いてしまう。
ここで迅を許すことが出来なかったら、彼は誰に許してもらえるのだろうと考えてしまうから。

『お願いだから、血を流さないで、悠ちゃんの身体が心配だよ』

迅「平気」

『…ばかいわないで。』

この温もりがなくなってしまった時、骨すら残らない姿になってしまった時。

私は彼の温もりを覚えていられる自信が無い。

お願いだから消えてしまわないで

そう願っている間だけ、私は温かさを実感できる。

迅悠一は今日も泣かなかった。