海底に棲むきみ【迅悠一】 (ページ20)

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12日目ページ20

いつか、メガネくんがここへきた辺り。大分昔に、迅が風刃を手放した事を知った時
私は

また迅は無理をしたのか。

そう端的に思った。

良い未来の為ならば自分の感情を犠牲にしてでも守り通す。
彼はそんな奴だ。

そんな彼が許せた訳では無いし、
そんな彼が好きなわけじゃない。

そのことを許した訳でもない。

冷たい海の中に、たった1人で入り込んで
その隣に私は居ない。

おれは海底に棲むのだと言い張るように、ざぶざぶ海の続く方へ足を運んでいく。

それでも私は、迅を殴ることが出来なかった。

迅は、私に風刃を手放した事を言わなかったし
今も彼の口からは教えてくれない。

私が、ただ一方的に過去を知っている。

知らないフリをするあいつに、私はいつまでも付き合っている。

あの日を境に彼が風刃を持ち歩いているところを見た事がない。

あの日を境に私と迅が風刃の話をすることは無くなった。

ずっと昔に最上さんの話をすることは無くなった。

それでも、私の中で過去が消える訳じゃない。

いつまでも流れ続ける過去を、私が忘れるわけない。

彼は、忘れてしまったのだろうか。

迅「どーした、A。考え事？」

『いや、別に』

珍しく私たちは同じリビングにいる。

彼は黙々と作業をしていて、私はそんな彼の横顔を少し遠くから眺めていた。

彼は誰に似たんだろうか

『迅はさ、お母さんかお父さん、どっちに似てるとか言われたことある？』

迅「んーー。無いな、そもそもお母さんしか居ない」

『そっかあ、』

急になに？と書類から目を離して私の方を見てくる。

『いや、別に悲しい話してやろうとかそういう事じゃないから。迅はどっち似なんだろーなと思って。』

迅「ちなみにAは？」

『どっちにも似てないって言われてた』

迅「なんだそれ」

私の中の記憶の母と父は髪が黒かった。
目もこんなにわかりやすい青だっただろうか。

あまり気にして見ていないから分からないけれど。

『迅と初めて会った時はびっくりしたよ？顔つきはそりゃあ違うけど、これが血縁か！ってね』

迅「だーから、うっっすい血の繋がりだって言ってるだろ」

そんなに否定しなくてもいいじゃないか。
そう言葉を零す。