海底に棲むきみ【迅悠一】 (ページ18)

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十日目ページ18

迅side

迅「出水。」

"Aさんが貧血で倒れちゃって。早退するので来て貰えませんか"と言われて、駆けつけた三門市立第一高等学校。

正面玄関から入り、下駄箱を通るなり
すぐさまAを見つけた。

ついでに出水も。

Aは目線だけでおれを見て、出水を支えにしながらゆっくりと立ち上がった。

『こないで、ほしかったのに。』

出水「先生にはおれが伝えとくんで。Aのことよろしくお願いします。かなりキツそうだから。」

お大事にな、そうAの頭をくしゃりと撫でてから出水は校内へ走って戻ってしまった。

そんな彼の後ろ姿に、"ありがとう"と言いつつ
おれは、おれの胸にすっぽりと収まるAに目を向ける。

迅「貧血だって？取り敢えず帰ろう。おぶるから、」

『あるける、』

無茶言うな、立ってるのもままならないのだろうし。

そう言うとうるさくなるのは承知の上なので、おれは無断で彼女を姫抱きする。

顔を顰める彼女は、嫌そうながらも抵抗する気力もないのか静かに俺に持ち上げられていた。

小さくなったな。そんな事を考えながら、高校を出る。

徒歩で来たのは間違いだった。レイジさんにでも車を出してもらえばよかった。

一旦彼女を下ろし、おれの上着を着せてからもう一度抱え直す。

迅「気休めで悪いな。」

おれが、Aのことを視れていたら、対処してやれただろうか。

『ゆうちゃん、ごめん……』

辛いのに、ハッキリと謝る彼女。
甘えられなくしてしまったのは、きっとおれなんだろう。

迅「いいって。」

募る暗闇、憎悪、嫌悪、愛情、
日々副作用(サイドエフェクト)のことを考えて生きている。

おれを救わんとするAのとこを考えている。

迅「生きててくれるだけで、十分おれの救いだよ」

おれの腕の中にいる彼女に、この言葉は届いただろうか。