9日目 ページ14
手に温もりを感じた。
冷たさを帯びるその手は、死んでしまったあと彼はこうなってしまうのか、と考えさせた。
外は明るくなっただろうか。
『迅。』
布団の外に彼は居るだろうか。
迅「はーい、居ますよ。」
彼は、死んでないか。
『聞いてないよ』
これは、夢じゃないのか。
迅「おれは、ここに居るよ。」
手の甲を指ですりすりと撫でる彼の、温かさを感じて
いつから私たちは変わってしまったのだろうと考えた。
昔は、SEに苦しむ彼を宥めていたのは私だったのに。
自分をバケモノだと言う彼を視てしまって、そんな事ないと声を上げて、悠ちゃんは大丈夫だと言って退けたのは私だったはずなのに。
『悠ちゃん、何処に行くの』
迅「どこにも行かないって」
『強くて優しい悠ちゃんなんか嫌いなの』
迅「はぁ〜??急になんだよ、おれはずっと昔っから優しいし強かったろ」
冗談っぽく笑う声が聞こえる。
そんなこと言ってるわけじゃない。そういうことじゃない。
本当の理由なんて、彼にも十分良くわかっていたんだと思う。
『怪我してたのはいっつもお前だったくせに。』
迅「おれが庇ってやった時だってあったじゃん?」
『…わたし、迅って苗字嫌い。ダサいから、』
迅「んん〜…おれのせいじゃないねソレは。」
『ややこしいから、悠一ってみんなに呼んでもらいなよ。』
迅「やだよ、今更感あるし」
『悠ちゃんは名前呼ばれないから、可哀想。』
迅「思ってないだろコラ」
『思ってるよ、カッコイイのにね』
迅「そう思うんならAがおれの名前呼べばいいじゃん」
『わたしはいいの。』
なんだそれ、って、迅が笑った。
寒いよねって、ベッドの上で2人並んで座って、布団にくるまった。
繋がったままの手が暖かくなっていった。
迅に温度があったから。
『もう、悠ちゃんなんて似合わなくなっちゃったね』
迅「おれは昔っからその呼び方否定してたけどネ、」
せめて呼び捨てかくん付けにしてくれよ、なんて隣で笑う彼が愛おしかった。
いつまでも、こんな時間が続いて、怖いことも苦しいことも無くなればいいと思った。
『泣き虫だったおまえには悠"ちゃん"がお似合いなんです』
そう伝えると、私を見ないで ドアの先を見つめた彼が"うん"と呟いた。
彼はきっと、私の前では泣いてはくれない。
『せめて、私が見える範囲に居てね。』
迅「こっちのセリフ」
『ばか、視えなくなるっての。』
3人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:いちごおれ?? | 作成日時:2023年2月20日 23時