何でもないただの幸せ ページ45
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「なっ!結婚を認めたわけじゃないからな!交際を認めただけだ!」
「まぁ、拳くん以上に良い人が見つかるとも思えませんが」
「私も。拳くん以外なんて考えられないよ」
「ま、まぁまぁ…今回は、交際を認めてもらいに来ただけですから。…求婚の際はまた伺います」
「……」
父親の何とも言えない表情を見た私と母親は、思わず笑い声から口から漏れてしまった。そんな私たちの姿が面白くないのか、父親はスタスタと部屋から出ていってしまった。
「お父さん!……ありがとう」
「……朝ごはんを準備してくるから、ゆっくり着替えて降りてきなさい」
「あ、僕も手伝います!お父さん」
「誰が君の父親かね!」
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「じゃあ…Aちゃん、拳。気をつけて帰るのよ。東京でも頑張ってね」
「はい…本当に、ありがとうございます」
香川の拳くんの実家にお邪魔したあと、記憶が戻ったこと、お付き合いを始めたことを報告すると、拳くんの両親は自分の事のように喜んでくれて、また涙が出そうになった。
空港まで送ってくれ、本当の母親のような優しさに溢れた愛情をしっかり受け取ってきた。
この母親なら、拳くんがあそこまで優しく良い育ち方をする訳だ。……野菜は、拳くんのお母さんがどれだけ頑張っても一切ダメだったみたいだけど……
「これで、やっと拳も野菜を食べられるようになるかしら」
「心配するとこ、そこ?」
「あら、それ以外は特に心配してないんだからこれくらい心配させてよね」
「それはそれで、どうなんだか…」
拳くんがどれだけ野菜を避けてきたのか、あの動画が全てを物語っていた。私も好き嫌いはあるけど、あそこまで野菜を食べないと健康面が心配だ……ちょくちょく野菜が食べられるようなメニューをレパートリーに増やしておかないと…
「Aちゃんならいつでもお嫁に来てもらっても大歓迎よ、なんなら今すぐにでも!」
「ちょっと!それはまたおいおいだってばー」
「おいおいなら今すぐの方が良いじゃない」
「色々準備して、きちんとプロポーズしたいじゃん!そんな流れで…なんて俺が嫌なの!」
「あら、我が息子ながらロマンチックなのね〜。…という事なのでAちゃん。もう少し拳に付き合ってあげてね」
「あ、はは…はーい」
交際の報告に来たのに…両家の母親からこうも結婚を迫られるとは……年齢的に仕方ないのかな。そりゃあ…いつかは、って思うけど……
今はただ、拳くんの隣に堂々と立っていられることに幸せを感じていたかった。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時