やらなきゃいけないあれやこれ ページ31
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「それじゃ…そろそろお母さん帰ろうかしら」
「徳島に帰るの?」
「いんや、明日帰る予定。今から帰るのは予約したホテルだよ。また明日退院する時に着替えとか色々荷物いるでしょ?」
「そっか…うん、ありがとう」
ベッドの上から母親を見送ったあと、私はベッドに背中を預ける。
母親から過去の事件の話を詳しく聞いて、夢の中で出てくる「けんくん」については、モヤモヤが晴れた。
やっぱり、あの夢の「けんくん」は拳くんだったんだ…拳くんが私の記憶に合わせてくれていた気遣いがとても有難い。けど…まだ記憶を取り戻せない事に焦りと拳くんへの申し訳なさが募った。
「拳くんは…私とQuizKnockで初めて会った時、どんな風に思ったんだろう…」
まさか、記憶をなくす前の私も拳くんのことが好きだったなんて。彼に再び会えて、再び好意を抱くなんてまるで運命みたい。…よっぽど私は、拳くんのことが好きみたい。
……でも、拳くんは?
本当は会いたくない、って思ってたらどうしよう…
対応や反応を見てる限りそこまで嫌われてるようには思えないけど……
母親の話の通りだと、私を見つけてくれたのが拳くんだって言ってた。つまりは、QuizKnockで誰よりも私の過去の事件のことを知っているわけだし、拳くんにとっても忌々しき過去の記憶なはずだ…
「もう、嫌われちゃってるかもしれないなぁ…」
私は、拳くんに再び会えて嬉しいけど…果たして拳くんは、それで良かったのだろうか。以前、私に会えて良かったって言ってくれたけど…私に気を使って言ってくれたんじゃないだろうか……
どんどん、自信がなくなってきた…私は…、皆に辛い思いまでさせて、大切な人に悲しい気持ちを抱かせてまで…のうのうと生きていて良かったのだろうか…
「怖い…けど、あの事件で何があったのか。思い出せたらいいな…」
本当は、すごく怖い。記憶が無くても男の人に対する恐怖心が残ってるほどなのだから…
それでも、今の私は記憶を取り戻さないと前に進めない。拳くんに、本当の自分で向き合いたかった。拒否されるかもしれない覚悟で…
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時