この胸に巣食う悪夢 ページ28
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微かな意識の中で、私の名前を一生懸命呼び続ける拳くんの姿が。返事をしたいのに、思うように身体が動かない…やがて、意識は薄れ……
───け、んくん…?誰…?知らない…
───Aちゃん…俺だよ…福良…拳だよ…?
───知らない…ごめんなさい…知らないです……っ
ふく、ら…けん……?
やっぱり…あの夢に現れる「けんくん」は…拳くん……なの?
「…ん……」
「あ…Aちゃん…、大丈夫…?」
「…あや、か…?」
意識を取り戻して、目を開けるとそこには心配そうに私の顔を覗き込む彩加の姿が。ここは……病院?
「Aちゃん、熱中症で倒れちゃったの。待っててね、今福良さんたち呼んでくる!」
熱中症……そうだ、私拳くんと外に飲み物を買いに行って…それから、頭が痛くなって意識が朦朧として…倒れちゃったんだ。
迷惑かけちゃったな……白い天井をぼーっと眺めながらベッドに寝転がっていると、バタバタと騒がしい足音が近付いてきた。
「Aちゃん!!」
「け、拳くん…」
ガラガラ!と音を立てて扉が開くと、拳くんと伊沢さんが心配そうに私のベッドに近付いてきた。
───いや、来ないで…
1歩ずつ、拳くんたちが近付く度、心臓が大きく大きく跳ねる。鼓動に反応して、頭痛もしてきた。……なに、これ……
───怖い…いやだ…嫌だ!
「いや…、来ないで!!」
「っ…?!」
「Aちゃん…?」
自分でもびっくりするくらいの大声に、2人の足がピタリと止まる。しん…と静まり返った病室に、私の荒い呼吸音だけが響く。
「Aちゃん、どうしたの…?」
「やだ…やだやだ…怖い……!」
「Aちゃん、落ち着いて!ゆっくり呼吸して!」
上手く、息が吐けない…手足の先が痺れていく感覚がする。…過呼吸だ。息が…吐けない…
「…出よう。俺たちが居るからだよ、きっと」
「え?」
「山森、看護師さん呼んでくるからAちゃんよろしくね。行くよ、伊沢」
「あ、あぁ…頼んだよ、山森」
「は、はい!」
再び朦朧としてきた意識の中で、拳くんと伊沢さんが病室から去っていく後ろ姿だけ、確認出来た。
「Aちゃん、大丈夫だよ。今福良さんたちが看護師さん呼んでくれてるからね、大丈夫だよ」
「ごめ…んね…彩加…」
自分の身に、何が起こっているのか……知りたいけど、でも知りたくない。知るのが怖い……
震える体に、こぼれる涙。怖くて、ただただ、彩加の手を握ることしか出来なかった。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時