君の声も心も遠くなる ページ27
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ミンミンと蝉の鳴く声がアスファルトを反射して耳に飛び込んでくる。そろそろ夏本番と思ったが、とっくの昔に夏はやってきていたようだ。
拳くんから離れて、少し顔の熱を取ろうとしたのに、何故か拳くんと2人きりでお出かけ。
……そういえば、祥彰たちが出掛けた時はオフィスにちらほら人がまだ居たのに、気づいたら拳くんと2人きりになっていた。そして、今のこの状況も拳くんと2人きり。
今までじゃ考えられないのに何でだろう。とっても落ち着く。というか、むしろ変な緊張をしている。
「暑いねー、やっぱり帽子かぶってきて正解だ」
「一応変装の意味でも…ね」
「え、変装なんている?」
「貴方ももう顔が世間にバレてるんだよ」
「あ、そっか…」
私はつばの広い帽子のおかげで、少し顔元が隠せる。これで、拳くんに顔の赤みを見られなくて済むかもしれない。顔の熱が夏の暑さのせいでないことは、とうに分かっていた。隣の拳くんが原因であることには。
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「やっぱり俺もついて行ってよかったよ」
「なんか、荷物持ちみたいなことさせちゃってごめんね」
コンビニで飲み物を買うだけの予定が。レジで並んでいたお婆さんから、近くで福引をやっていて券があるからあげるわ。と譲ってもらって折角貰ったんだからやって行こうよ、と1枚の福引券で3等を当てて、まさかの飲料水1ケース貰えるとは、誰が予想出来ただろうか。
「まあまあ、他のみんなの分も用意出来て良かったじゃん」
「それは、そうだけど……」
拳くんの額に汗が滲んでいる。確かに私一人じゃ、こんな大きなものは運べなかった。かと言って、一緒に来る人は拳くんじゃなくても良かった筈だ。拳くんがわざわざ私と一緒に出掛ける必要性が無い。
「拳くん、重くない?」
「軽くもないけど、これくらい運べるよ。俺だって男だしね」
スラリと伸びた高い背、細い手足からはあまり想像出来ないくらい力強い。
───拳くん、重くない?
─── 軽くもないけど、これくらい運べるよ。俺だって男だしね
先程と同じやり取りが頭の中で再生される。
けど、さっきの状況と少し違う。現在より幼い顔立ちに、何故か制服を着ている。
……これは、過去の私…?隣にいるのは……拳くんだ。
「痛っ……」
「Aちゃん?大丈夫?!」
頭痛が酷くなっていく…、目も開けられなくなってきた。拳くんから呼ばれる声を遠くに聞きながら、私は意識を手放した。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年7月29日 19時