ハルジオンが咲いた頃 ページ37
【ハルジオン】追想の愛
(山本side)
伊沢さんはしばらく僕を見つめたまま。僕も伊沢さんを見つめて数十秒の長い時が僕ら2人の間を流れた。
しばらくして緊張の糸がふと緩んだかのように張り詰めていた伊沢さんの表情が緩んだ。
「…そうだ。とも言えるし、違う。とも言える…かな」
「へ…?」
思わず僕の緊張も解けてしまって気の抜けた返事が出てしまった。そんな虫けらのような声に伊沢さんの口角がさらに上がって少し微笑んでいるようだった。
「ハッキリとしたことは俺の口からは言えないよ。それは、山本がきちんとAちゃんに向き合って聞くべきだと思う」
「でも…Aちゃんいくら連絡をしても返事くれないし、大学でもなかなか会えなくて…」
「それは、ただの言い訳だ。会おうと思えばいくらでも会える。名前も顔も知らない誰かに会いに行くわけじゃないんだ。顔も名前も、声も姿も、大学まで知ってるじゃないか。…会おうと思えばいくらでも会えるさ」
伊沢さんが言わんとしてることは、分かったようなよく分からないような…ふわふわとした感情が僕を纏っていた。
でも、なんとなく背中を押されているような気がして僕の口角も自然と上がった。
「…分かりました。自分でなんとかしてみます」
「おおっ、いいぞ。その目だその目。山本なら、大丈夫さ」
.
自分でなんとかしてみます、とは言ったものの……どうにかする手立てなんてまるでなかった。根拠も何も無いのに、何故か自信だけは満ち溢れていた。何とかなるだろう。それは決して適当に考えている訳ではなく、いつかきっとAちゃんから真実を話してくれる日が来るし、僕も彼女について知りたいと思っていれば、その日がすぐ来てくれると信じていたのだ。
「……僕らが初めて出会った、早稲田の食堂で再び会えるだろうか」
今まで、幾度となく通った、特になんの思い入れもない食堂。たまたま通りかかった変なクイズに、司会者に半ば強引に参加させられ、仕方なく席に着いて待っていると、遠くから友人に連れられ彼女も半ば強引にクイズに参加させられていた。
まるで同じだな、と彼女を見つめて笑えば彼女も同じように笑っていた。その笑顔を見た時から、今思えば彼女に何かしらの感情を抱いていたのだろう。
彼女がピオニーだと思っていても、惹かれていたのは確実に、恵比寿Aだと。そこは、はっきりと自信をもって言えた。
「早く君に会いたいよ、Aちゃん…」
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りんご(プロフ) - 葉月さん» ありがとうございます!素敵と言って貰える作品作りが出来て良かったです!次回作も構想練ってますので、ぜひお読み頂けたら嬉しいです(*^^*) (2020年7月10日 12時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 名無し21900号さん» 完結致しました!最後までお付き合い頂き、コメントまで...感謝致します!次回作まで楽しみにしてくださって嬉しいです…!ぜひ頑張りますので、次回作でも会えたら嬉しいです(*^^*) (2020年7月10日 12時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
葉月(プロフ) - 完結おめでとうございます(謎)!語彙力がないので上手く言えませんが凄く素敵です!とても面白かったです! (2020年7月10日 0時) (レス) id: 17b218ff81 (このIDを非表示/違反報告)
名無し21900号(プロフ) - 完結しましたね、、!更新されるのがとっても楽しみでした!次回作にも期待してます、、! (2020年7月10日 0時) (レス) id: 92c0a47f28 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - 葉月さん» ありがとうございます!そう言ってくださる方がいらっしゃるだけで頑張れます(*^^*) (2020年6月20日 17時) (レス) id: cb54059665 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年6月13日 12時