君に送るありったけの / ymmt ページ8
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土日の2連休を終え、今日から月曜日。折角重い腰を起こして仕事へ向かおうとしていたのに、祥彰に抱きつかれて身動きが取れない。
チワワのような顔をして、私を引き止める彼の腕など払える筈もなく、只々玄関で彼に抱きつかれたまま立ち尽くす。
「本当にごめんだけど、月初はどうしても仕事が忙しくて休めそうにないの」
「僕の誕生日なのに?」
そう。今日6月1日は彼、祥彰の誕生日。本来なら休みでも取って彼の誕生日を盛大にお祝いしたいところだが、先程も言った通り1日は月初で、私の仕事もかなり忙しくなる日だった。
そんな日に休みを貰おうもんなら、私は仕事に殺される。
「祥彰んとこみたいに融通が利く会社だったら良かったけど…、そこは本当にごめん!」
「僕だって、Aの仕事の邪魔がしたい訳でもないし、仕事が大変で大事なのも分かってるよ。」
彼も彼なりに、お仕事を毎日頑張ってるし、何より楽しんでいる。そんな彼だから私の仕事もとても応援してくれるし、邪魔だなんて思ってことも一度もなくて。今回の事だって、きっと彼なりにけじめがつけられないだけでどうにもならない事は、彼も承知のはず。
「じゃあ、今日仕事早めに終わらせて帰ってくるから!そしたら、祥彰の好きな物なんでも作るし、何かして欲しかったら何でもするから!」
ダメ? そう彼の方へ身体を向けて、首を傾げて尋ねる。すると彼は私の首元に顔を埋めて、ぎゅうっと私の身体を強く強く抱き締めた。
少し擽ったいけど、この仕草の時は彼が甘えたい時にしてくる抱き締め方のひとつ。そんな祥彰が可愛くなって思わず頭を撫でる。
「仕方ないなぁ。じゃあ僕、Aのオムライスが食べたい!」
「分かった!仕事終わったら連絡入れるから一緒に買い物行こ!」
「うん!」
漸く機嫌が治ったみたい。離れていく彼の腕に名残惜しさを感じていると、彼の腕はそのまま私の腰を引き寄せ、彼の胸板に倒れ込む形となった。さっきとは反対に私が祥彰に抱きついている形となる。
「よっ、祥彰?」
「オムライス食べたらー、ケーキはAにしよっかなぁ」
「んなっ」
至近距離でそう話されれば、私の顔もたちまち赤に染められる。耳まで赤くなった私を見て、祥彰は、可愛い。と笑いながら私の顎あたりを摩る。
駄目だ、逃げられなくなる!
これ以上は、帰ったらね!なんて、先を期待しているかのような事を言って出てきてしまったが、兎に角今は祥彰から離れることが第一だった。
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年5月29日 14時