雨が僕らをくっつける / ymmt ページ22
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なんとなく、憂鬱な季節がやってきた。窓辺のソファから外を見渡せばザーザーと降る雨音に耳を傾けた。
今朝の天気予報。梅雨の合間の貴重な晴れ間!って言ってたじゃない。天気予報士の嘘つき。
荷物が増えるのを嫌う私は、カバンの中にもオフィスにも傘は置いておらず、こうして仕事が終わったにもかかわらず執務室でぼーっとして時間を過ごしていた。
「何してるの?」
「傘忘れたんですー」
「天気予報見なかったの?」
「見ましたよー。晴れって言ってました」
「僕が見た時思いっきり雨マークだったけどなぁ」
「うそぉ…」
パソコンで記事の執筆をされてる山本さんは画面から私に視線もくれずただ淡々とそう呟く。少しくらい私の方見てくれてもいいじゃないか…
「さすがにこの雨の中帰れないですよー」
「じゃあ僕の傘貸してあげよっか?」
「え!良いんですか?!」
「1万円ね」
そう言って、はい。と、右手を私に差し出しこういう時だけきっちり私の方を見る山本さんをキッと睨みつけると、揶揄うように彼は笑うんだ。
「もう今日泊まってこうかなぁ」
泊まる気なんてサラサラないのに、半ば諦めモードでソファに項垂れ、不貞腐れたように目を閉じて寝転がった。
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「っは……!!」
「あ、起きた?」
「…あれ、山本さん?」
気付いた時には外は真っ暗で街の灯りが煌々と
輝いていた。ソファからむくっと起き上がると肩から流れ落ちるブランケットに初めて、眠ってしまっていたことに気付いた。
「はぁ…」
パソコンをパタン、と閉じながら山本さんが溜息をつく。私が寝てたから部屋から出るに出られなかったんだろうな。申し訳ない…
外を見れば窓にはまだ大粒の雨が降り掛かってきていて、本気でどうしようかと悩み始めた時
「傘、入ってく?」
「え…良いんですか?」
「じゃあ本気でオフィスに泊まるの?」
「う…入らせてください」
少し呆れながらも優しい山本さんに甘えて、帰り支度を済ませ二人で玄関へと向かった。
外に出れば昼間より何ら変わらない強さの雨と風に二人で傘に入るには些か心許ない。
山本さん濡れてないかな…チラッと山本さんの左肩を見てみれば、なんと傘からぽたぽた垂れてくる雨でベタベタになっている彼の肩が目に入った。
「わ!山本さん!肩めっちゃ濡れてるじゃないですか!」
「気にしなくていいよ」
なんて、呑気に話すけどこっちが気にしますってば!
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作者名:りんご | 作者ホームページ:
作成日時:2020年5月29日 14時