6.邂逅 ページ8
「それって世界チャンピオンってことですか!すごいですねえ、世界を制覇した王者が僕の隣にいるとは。信じられませんよ。」
Aは月を見上げながら、思い出に耽ける。
彼らも同じ空を眺めているのだろうか。
天を仰ぐAの横顔を見ながら、安室が問う。
「そういえば、なぜこんな夜更けに散歩を?」
「ゲームの熱を下げに来たんですよ…年甲斐にもなく白熱しちゃったんで。」
「年甲斐にもないって、Aさんはまだまだ若いでしょう。10代に見える。」
「不正解ですよ、安室さん。私は20です。安室さん、私の年齢を当てられないなんてホントに探偵さんですか〜?」
年相応の幼く悪戯なAの笑みに、安室もつられて笑顔になった。
「そうですよ、まだまだ未熟者ですが。…さ、帰りますよ。遅い時間に若い人が出歩いては危険です。」
「ふふ、なんか安室さんって探偵さんよりも警察官っぽいですよね。」
的を得ている彼女の言葉に、一瞬ドキりとした安室であった。
すくっと立ち上がった安室に手を引かれ、Aも立ち上がる。
はじめて触れた彼の体温は、何よりもあたたかかった。
「僕が家まで送りますよ。」
「ではでは、お言葉に甘えて…よろしくお願いします。」
河原を後にしたふたりと一匹。
0時を回る前には彼女を家へ送り届けねばならない。
安室はハロのリードを持ちながら、同じ歩幅で隣を歩くAへ声をかけた。
「さっきの河原から家は近いんですか?」
「うーん…歩いて20分くらいかなあ。」
「だからといって、女性がひとりで出歩くのは感心しませんよ。」
「うっ、それはごめんなさい…。」
他愛ない世間話をしながら、歩くこと約20分。
安室は嫌な予感がしていた。
なぜならこの道は工藤邸へ続く道であり、安室にとって因縁の相手─沖矢昴が住んでいるからだ。
(一緒に住んでますとか言わないでくれよ。)
そんな安室の淡い願いは叶わず、Aは工藤邸の前で立ち止まった。
「安室さん、送ってもらってありがとうございました。」
「…Aさん、本当にここで合ってます?」
「…え?ここは私の家ですけど…。」
(そんな…彼女は赤井と何か関係が?)
目まぐるしく回る、安室の思考回路。
Aはぽかんとしていた。
「いえ…なんでも。おやすみなさい、Aさん。」
今すぐにでも彼女を問いただしたい気持ちをグッと抑え、Aに手を振った安室は工藤邸を後にした。
彼らの様子を、窓から沖矢が覗いていることも知らずに。
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年4月8日 2時