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工藤邸に帰宅したA。
日はもうすでに傾き、少しばかり肌寒い。
門を開け、玄関の扉を開けるとそこには沖矢が立っていた。
「おかえりなさい、Aさん。」
「ただいま、昴さん。お出迎えありがと。」
靴を脱いでいるAは、いつもよりどこか上機嫌だ。
それを不思議に思った沖矢は、「何かいいことでも?」と問いかける。
Aは話したくて仕方ないと言った表情で、嬉々として語り出した。
「ふふ、実はね!すっごく美味しいハムサンドを提供してくれる喫茶店、見つけたんだよ。昴さんもさ、大学院が休みの日は一緒に行かない?」
Aの着ていた上着を脱がせて預かった沖矢は、Aの言葉に興味津々だった。
なんて言ったって、あの店には彼がいるのだ。
「…ホォー……?」
安室と同じく爽やかな沖矢の笑顔だが、いまは肝心の目が笑っていない。というより、ちょっとの驚きを含んでいた。
「?なーに、昴さん。その顔は。」
「いやいや、何でも。僕も興味ありますね、そこ。」
「ほんとかなあ、それ。昴さんって時々胡散臭いよね。」
「Aさん。貴方そう言ってますけど、ついさっきハムサンドを食べたんですよね?今日の夕飯、食べられないんじゃないですか?」
「…………………あ。」
「流石の世界チャンピオンも読みが浅いですねえ。」
「うるさいな!おかずだけ食べるよ。」
「残念、今日はミートパスタですよ。」
「うわ〜〜!昴さんの卑怯者!鬼!ラスボス!」
Aと談笑しながら、リビングルームへ向かうふたり。
沖矢はそれと全く別のことを考えていた。
それは同居人として、時には保護者としてAのお世話をこなしてきたこと。
ぽっと出の安室に、彼女が取られてしまうのではないかと少し危惧していた。
(同居してることが知られると面倒だな…。)
沖矢はAに怪しまれないよう、おもむろに自身の首元を触った。
彼女を危険なことに巻き込ませないと、ひとり覚悟を決めるのだった。
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年4月8日 2時