プロローグ ページ2
きれいに整えられたPCデスクの下には、まばらにペットボトルが転がっている。
カーテンを閉め切った密室で、彼女はひとり伸びをした。
「ふ〜…今日の配信は終わり、っと。」
手元だけを映すカメラ。
そのスイッチを切り、PCをスリープさせる。
静かなファンの音が次第に小さくなってゆく。
「エイムは上々、あとは瞬時の判断をもっと早く出来たらチームに負担がかからない…。」
凝り固まった眼をケアするための目薬をさし、じっと瞼を閉じながら先程の盤面を思い出す。
ふと、デスクに立てかけていた写真立てを一瞥する。隣には金色に光る優勝トロフィー。
挟まれた写真には、彼女と数人の男性が肩を組んで写っている。
彼らは唯一無二のチームメイトであり、ライバルだ。
えもいえぬ懐かしさを感じているうちに、コンコンというノック音と共にゆっくりと部屋の扉が開いた。
「Aさん、お疲れさまです。」
「ありがとう、昴さん。」
開いた扉の先には、同居人である沖矢昴の姿。
「たまには外に出たらどうです?太りますよ。」
彼の遠慮ない言葉がグサリとAの心に刺さった。
あからさまに顔を顰めているA。
「はいはい、わかってますよぉ〜…!じゃあ着替えるから出てね、昴さん?」
「はは、夕飯までには帰ってきてくださいね。」
沖矢の言葉にこくりと頷くA。
愛用のゲーミングチェアから重い腰を上げて立ち上がったAは部屋を出ていく沖矢を見送り、普段開けることの少ないクローゼットを開けた。
(町内を散歩したあとに喫茶店にでも寄ろうか…。)
そんなことを考えながらクローゼットをごそごそ漁る。
適当な服に着替え終わったAは、歩きやすいスニーカーを履いて玄関の重いドアを開けた。
イヤホンを付け、歩き出す。
(あ…そういえば、毛利探偵事務所の下に良い雰囲気の喫茶店があったなあ。そこ行ってみよう。)
───この決断が彼女の運命を変えることは、今は誰も知らない。
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年4月8日 2時