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その日の夜。
ソファにてテレビを眺めていたAが、ふと口を開いた。
「...あのさ。刀也のこと、勘違いしてたよ。私。」
刀也は皿洗いしていた手を止め、Aの言葉に耳を傾ける。
「こんなに優しいやつだなんて知らなかった。もう二度と会うもんか!って思ってたけど、こうして生活してみると...案外良いんじゃないかな〜って!」
「一言余計だろ。」
「あはは、ごめんごめん。」
けらけらと笑ったAは、“でもね、”と続けた。
テレビの音声はもはや気にならない。
「刀也がほんとに旦那さんになるなら、私、文句ないかも。へへ。」
照れながらそう言ったAの顔は、今でも忘れられない。
一瞬、時が止まったようだった。
刀也は、自身の心の隅で、あることを自覚し始めていた。
そのあることとは、Aへの恋心。
お転婆で、目を離すと何か危ないことに巻き込まれているAが放っておけなくて、刀也はAをいつも目で追っていた。
彼女の家庭環境も例外ではない。
大企業の跡取りとして生まれたが、性別を理由に満足な扱いを受けてこなかったA。
母親からの言葉で、精神的な攻撃を受けていたAの目は、いつも悲しみの色で満ちあふれていた。
そんな彼女を、どうにかして救いたかったのだ。
幼い頃に思い描いていた、“結婚してAを救い出す”。
それが偶然か必然か、ある日突然現実となった。
幼少期は喧嘩ばかりだったが、それも恋心ゆえの行動である。
好きな子ほどいじめたい、とはこのことだ。
「……。」
刀也は濡れた手を拭いて、キッチンからAの元へ歩いてくる。
黙って歩いてきた刀也に、Aはソファのスペースを譲ろうと思い立ち上がった。
しかし、Aの腕を掴んだ刀也が、Aをぐいっと抱き寄せた。
立ち上がれなかったAの身体は、すでに彼の腕の中へ。
熱が残っていて、ほんのり熱いAのからだを後ろから抱きしめる刀也。
突然のことで驚いたAだったが、抱きしめる力が強くて抜け出せない。
「ちょ、ちょっと刀也、」
「僕と家族になってください。A。」
Aの言葉に被せるようにして紡がれた言葉は、あまりにも甘く、真剣で、情熱的だった。
「僕の傍から離れるなよ。…絶対、僕が守るから。」
微熱程度にまで下がっていたAの熱が、また上がったのだった。
─終─
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ンョョ(プロフ) - すず。さん» すず。様、コメントありがとうございます〜!更新遅めですが頑張ります! (2023年2月19日 23時) (レス) id: 795bb29f75 (このIDを非表示/違反報告)
すず。(プロフ) - とても好きな作品です!これからも更新頑張ってください! (2023年2月19日 21時) (レス) @page21 id: 43a5a8ad4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年1月17日 12時