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学校へ行く準備を済ませてマンションのロビーへ降りると、門の前では黒服と黒塗りのリムジンが待ち構えていた。
通行人はその仰々しい見た目を二度見して、そそくさと早足で通り過ぎていく。いくらなんでも目立ちすぎだろう。
はあ、とAが溜息をつくと同時に刀也も溜息をついた。
学校で変な噂が立っていないといいけど、と願いつつ車に乗り込んだ。
…Aは見事にフラグを立てていたらしい。
Aと刀也が同じ車から出て正門を通った瞬間、校舎に向かっていた生徒たちの視線がこちらへ向いた。それはもう、一斉に。
女子のグループはひそひそ声で、“あのふたり婚約したらしいよ”と話し、男子のグループは恨めしそうに刀也のことを睨んでいる。
Aは容姿も良く、家柄も良いので男子には人気だった。そんなAをぽっと出の刀也がかっさらったように見えたらしい。
嫉妬の目が刀也にちくちくと刺さるが、当の本人は何処吹く風といった表情。
教室に向かう途中でもジロジロと見られ、Aは目線のやり場に心底困っていた。どこを見てもこわい。楽しい新学期のはずが、Aにとって、学校は生き地獄と化していた。
そして教室に一歩踏み入れようとした瞬間、入口のちょっとした段差に躓いてしまった。
マイケル・ジャクソンもびっくりなほど斜めになっている気がするなあ、とAは思った。
スローモーションで顔面が床に近づいていく。教室の床は硬いから痛そうだ。
(あ、やばい、)
Aは次にくる痛みを覚悟して目をギュッと瞑ったが、一向に予測したものは来ない。それに、なぜか腹の辺りがあたたかい。
人の腕で抱きかかえられている?…一体、だれに?
「ッ、おい!危な!」
その体温と罵声の主は紛れもなく刀也だった。
転びそうになったAは刀也の右腕で抱きかかえられ、運良く転ぶ寸前でキャッチされたのだ。
どくん、どくん。Aの心臓は強い拍動を繰り返す。心臓の音が彼に聞こえてしまうのではないかと思うほどうるさい。
Aを元通り立たせると、刀也は目線を逸らして静かに言い放った。
「…怪我されたら困ります。だってあなた、僕の妻なんですから。」
教室がここぞとばかりにシン…と静まり返った。
Aは照れていて何も言えず、あんぐりと口を開けていた。今日の私、不整脈すぎる。
一瞬の静寂が訪れたあと、教室は拍手喝采の嵐に包まれ、朝礼をしに来た教師がわけも分からず首を傾げていたことは、もはや言うまでもない。
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ンョョ(プロフ) - すず。さん» すず。様、コメントありがとうございます〜!更新遅めですが頑張ります! (2023年2月19日 23時) (レス) id: 795bb29f75 (このIDを非表示/違反報告)
すず。(プロフ) - とても好きな作品です!これからも更新頑張ってください! (2023年2月19日 21時) (レス) @page21 id: 43a5a8ad4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年1月17日 12時