1.新人OLと拾い犬…? ページ16
その日は、雨がざあざあと降っている日だった。
道端の排水溝は許容量を超えた水にぶくぶくと音を立て、溢れかえっていた。
濡れたコンクリートからは独特のにおいがしていた。
そんな中、会社から退勤した私は家路をたどっていた。
今日は御局様の言葉が一段とキツい日で、体も心もドッと疲れてしまった。
まだ入社して一年も経っていないのに、この先やっていけるのかな。
私は大きなため息をついた。
誰もいない帰路。街灯もそこそこで、ちょっと薄気味悪い。
そこを、水を含んでぐしょぐしょになったパンプスで歩いていた。
視線の先には自動販売機。
たばこの吸い殻が水たまりのうえでぷかぷかと漂っている。
誰も掃除しないし、ゴミはたまる一方。
だが、今日はいつもと違う。
自動販売機の下で、黒いなにかが蠢いている。
虫にしては大きい。
とはいえ、成猫にしては小さすぎる。
正体不明のなにか。
私はそれにそうっと近寄ってみた。
毛が生えていて、尻尾が生えている。…子猫だろうか?
私は試しに“にゃー”と鳴いてみた。
すると、黒い物体は自動販売機の下から顔を覗かせた。
真っ黒ではなく、ほんのり暗い紫が入り混じった色の毛。
くりっとしていて、満月のようにまんまるな翡翠色の瞳。
耳はぴょこんと立っている。
口元からは赤くて小さな舌と少し尖った犬歯が見てとれた。
子犬だ。間違いなく子犬。何の犬種なのかはわからないけど。
その子犬をまじまじと見ると、ひとつ気づいたことがあった。右の前足に血が滲んでいるではないか。
「あらら、怪我してる…。」
私は咄嗟にしゃがみこんで子犬を傘の中に入れてあげると、子犬は右前足を引きずりながら私の足元にすり寄ってきた。
ストッキング越しに子犬の体温が伝わってきて、少し安堵した。幸いにも体は冷えきっていないようだった。
くんくんと鼻を動かして私のにおいを嗅いでいる。
「きみもひとりぼっち?」
私がそう言うと、子犬はさみしそうに“くぅん”と鳴いた。
どうしたものか。
右足は怪我をしているし、このまま雨に曝されていると低体温になってしまうかもしれない。
私の借りているアパートはペット禁止だけど、この子が元気になるまで保護するくらいなら怒られないと思う。
…それに、なぜか今夜はひとりで過ごしたくないと思った。
「…よし、おいでワンちゃん。お腹すいたでしょ。」
私は着ていたジャケットでその子を包み込み、落とさないよう左腕でぎゅっと抱きかかえ、早足で家へ向かった。
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ンョョ(プロフ) - すず。さん» すず。様、コメントありがとうございます〜!更新遅めですが頑張ります! (2023年2月19日 23時) (レス) id: 795bb29f75 (このIDを非表示/違反報告)
すず。(プロフ) - とても好きな作品です!これからも更新頑張ってください! (2023年2月19日 21時) (レス) @page21 id: 43a5a8ad4f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ンョョ | 作者ホームページ:https://odaibako.net/u/DhbwLy
作成日時:2023年1月17日 12時